《ハリウッド映画『ラスト・サムライ』(エドワード・ズウィック監督)では攘夷派の古いタイプの武士、氏尾役を演じた。脇役ではあったが、ストイックな色気と迫真の殺陣(タテ)は主役のトム・クルーズを食いかねない存在感を発揮。主役二人(トムと渡辺謙)以上に、映画のメーンテーマ「失われゆく武士道」のイメージを世界に強く印象づけた》『ラスト・サムライ』のオファーは『たそがれ清兵衛』(平成十四年、山田洋次監督)の撮影前でした。氏尾は日本の古いタイプの、現代は失われつつある男像。これは絶対に中国の俳優さんとか日系二世の方には演じてほしくないという思いがありましたね。作品がエンターテインメントであっても、過去にあったような偏見と誤解に満ちた日本人像には描いてほしくはない。飛び込んで、戦って、日本人が見て恥ずかしくない日本人が描かれた初のハリウッド映画が作れないかな、という気持ちで引き受けました。役の大小は関係ありません。オリンピックじゃないですけど参加し、死力を尽くしてどこまでやれるかという気持ちです。欧米好みの日本人を演じさせられるのではないかという不安もありましたが、そうなったら降ろされてもいい。一方
でも、ハリウッドの殺陣師は日本人じゃないんで、まったく日本人らしくない動きをつけることもあるんですよ。ちょっとのところでウエスタン(西部劇)になったり香港カンフーになったり。間合いもリズムも足運びも全部違うので、それに全部自分で直しをいれました。彼(殺陣師)もプライドがあるんで、最初は抵抗しましたけどね。──自分の出番以外もスタッフのように立ち会っていたそうですね。──そのかいあって、ハリウッド映画で最も日本を尊重している作品、という評価も寄せられました。『ラスト・サムライ』公開後、新渡戸稲造の『武士道』(BUSHIDO)が米国で飛ぶように売れたそうですよ。ハリウッドはアジアに目が向いています。門戸は開かれているんですね。日本の方が欧米やハリウッドに対して壁をつくって、文化的鎖国に陥っているような気がする。そういう日本の鎖国的状況に突破口を開いたという意味でも、リスクを背負ってこの映画に思い切って飛び込んだ意義はありますね。
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