「そっちじゃないよ」「ムズい(難しい)」。前面に設置された12台の液晶モニターに向かって、作業員が声をあげた。
準大手ゼネコンの西松建設が高知県で工事を進めている「不破原トンネル」(延長1831メートル、2024年1月竣工計画)。同社はこの工事において、ICT(情報通信技術)やメカトロニクスを駆使した施工機械の遠隔操作・自動化施工技術の実証実験に取り組んでいる。3月20日には、同トンネル内で3回目となる実証実験が行われた。まずは、工事中のトンネルの最先端(切羽)において、50~100メートル離れた区間からの遠隔操作による掘削技術の確立を急ぐ。今回の実証実験で使用されたホイールローダと呼ばれる砕石や土砂を運ぶ施工機械には、固定カメラ7台が装備され、トンネル内の壁にも固定カメラ3台が設置されている。そこから無線通信を通じて送られてくる映像(途中の基地局からは有線通信)を見ながら、作業員が操作室のコックピットでレバー(スティック)を使って遠隔操作する。
ホイールローダを操作していた高橋隆義さんは、普段は実車機を操作しており、施工機械操作の経験が豊富。ホイールローダの遠隔操作についても、今回で3回目の実証実験への参加になるが、それでも「(遠隔操作は)実車機のときの感覚とはかなり違う」(高橋さん)と戸惑いを隠さない。今後も試行を重ね、遠隔操作の技術を習得していくという。数ある土木工事の中でも、とくにトンネルの最先端である切羽周辺で行われる作業は、もっとも危険な領域のひとつとされる。照光が十分でない暗い場所で、複数の大型施工機械が動くため、つねに接触事故などの危険を伴う。「トンネル工事の労働環境は過酷だ。粉塵や雨、そして安全対策が欠かせない。この危険の高い切羽周辺になるべく作業員を立ち入らせないようにするためにも、遠隔操作の技術を確立しなければならない」と、西松建設・不破原トンネル出張所の鬼頭夏樹所長は話す。
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