「フェニキア」という国をご存じですか? 地中海の東、現在のレバノンのあたりです。ここに紀元前3000年頃にペルシャ湾から移動してきた人々のことです。地図を見てみるとチグリス、ユーフラテス川に沿って地中海までやって来たようで、メソポタミア文明との繋がりを想像させます。フェニキア人は地中海を中心とした海上貿易で活躍し、紀元前14~13世紀には当時の全世界に活動範囲を広げていました。各地に貿易拠点を作っていきましたが、最も重要な拠点となったのはカルタゴです。現在のチュニジアの首都チュニスの近くで目の前のシチリア島を経由すればイタリア半島、ローマへの最も近道となります。
交易品としてはフェニキア人の本拠地レバノンに生育するレバノン杉。今でもレバノンの国旗に描かれていますが香の良さと耐久性で神殿の内装にも使われました。他にも染料や織物、確かな技術の職人が作る貴金属やガラス細工など、当時の地中海世界のお金持ちにはどれも欲しいものばかり。このような各地のネットワークを駆使した交易は、民族や言語の違いを越えて意思の疎通を図るために文字を必要としたのです。フェニキアで生まれた文字はギリシアへ伝わりギリシア文字となり、ローマ人はギリシア文字をまねて自国のラテン語を表記する文字、すなわちローマ字を作ったのです。その後ローマはヨーロッパ全体を支配し、キリスト教を広めました。この時ヘブライ文字のキリスト教典をラテン語化して布教したので、キリスト教とともにローマ字はヨーロッパ全体に伝わっていきました。玉木俊明著『世界史を「移民」で読み解く』NHK出版新書それは明治維新、急速に西欧の文化を取り入れているときに始まりました。理由は漢字の読み書きの学習はアルファベットを学ぶより時間がかかり過ぎ、知識を取り入れる時間が少なくなるということでした。第二次世界大戦後はアメリカ教育使節
しかし、私たちは漢字と平仮名、カタカナを使って日本語を読み書きしています。「ローマ字教育」はどうも成功しなかったようです。小学生で初めてローマ字を習ったときは珍しさにワクワクして、一生懸命ローマ字で作文してみました。ところが読み返すのが一苦労です。ローマ字の音を漢字や平仮名に頭の中で置き換えないと文章の意味が理解できないのです。何という矛盾でしょう! やがて英語の授業が始まりローマ字は物珍しいものではなくなり、日本語とは切り離されていきました。誰もがローマ字にこのような経験を持っていらっしゃるのではないでしょうか。 ところが、このローマ字教育が大切だったことを知るのが、コンピュータでキーボードを使うようになったときです。ローマ字入力の仮名漢字変換は、アルファベットのキーボードで日本語を入力するために多くの学者の方々が工夫を重ねた結果でした。ローマ字教育がきちんとされていることが前提となっているわけですから。ローマ字なんて日常生活に関係ないなぁ、と思いがちですが実はもっとも身近なところで誰もがお世話になっていたのです。
5月20日はWikipedia日本語版スタートした日でもある。(2001年) Wikipedia日本語版
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