日本の香の歴史は、仏教伝来とともに始まりました。神仏に供える香を平安時代の人々が生活文化の中に取り入れて、のちに室町時代には日本独自の「香道」として成立しました。世界中に香水やアロマの文化はあれど、香りを芸道として楽しむのは日本だけなのです。
香道では、香りを「嗅ぐ」とは言わずに「聞く」と表現し、「聞香」と言います。香炉の中の灰に火をつけた小さな炭団を埋め、灰山の頂点に銀葉という雲母板をのせ、その上に香木を置いて炭団の熱で温め、香りを立ち上らせます。香木には沈香と白檀があり、香道では「六国」と呼ばれる6種類の香に分類されています。炭団の火を調整し灰の形を整えるのは初心者には難しいでしょうから、最初は電気で温める電子香炉を使ってみるのもいいかもしれません。 香道の楽しみのひとつに「組香」があります。数種類の香を聞き分けて、その主題や趣向を味わう遊びです。まず香元となる人が数種類の香木を順不同でひとつずつたいて香炉を客に回します。客はそのつど香を聞いて覚え、最終的にどの香がどういう順番で回ったかを回答用紙にそれぞれ記録し、最後に全員で答え合わせをします。組香では昔のさまざまな歌集からとった一首を「証歌」つまりテーマとする場合もあり、歌の中に出てくる言葉が香木の名前になります。たとえば春の組香「桜香」の一例では、〈桜散る木の下風は寒からで 空に知られぬ雪ぞ降りける〉という紀貫之の歌を証歌とし、「桜」「風」「雪」という名前を当てはめた3種の香を聞き分けます。『和漢朗詠集』『古今和歌集』『伊勢物語』などはいい歌がたくさん収められていますから、香道により親しむためにも、日頃から好きなところだけ拾い読みしてなじんでおくといいでしょう。それから回答用紙に回答を筆でしたためますので、書の腕前も必要になってきます。香道は、和歌と書の素養も一体となって香の世界を味わう知的な遊びでもあるのです。「香十...
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