就任時、荒木がヘッドコーチのジョーンズから求められていたミッションのひとつが、「日本代表というチームに、国際的に戦えるマインドセットを作り上げてほしい」というもの。現在は日本中の期待を背負って闘う姿は多くの人の憧れとなっているが、当時は代表に呼ばれても「負けて非難されるのが嫌だから、代表に入りたくない」と後ろ向きな想いを抱く選手や、代表に呼ばれても辞退する選手も存在したという。
さらに、ラグビーは、他国籍の選手でもその国のクラブチームに所属していれば代表になれるという特殊ルールがあるため、代表メンバーには外国人選手も多い。そこで、キャプテンを含むリーダーシップグループと荒木が重視したのが、日本代表の選手たちの間で、「国を背負ってプレーしている」というエネルギーを、いかにして高めるか、だった。 「当時の日本チーム内では、『日本代表のメンバーになることは、日本でラグビーをプレーするすべての選手の代表であり、誇りである』との考えが希薄だったんです。外国人選手はもちろん、若い世代の日本人選手も、“日本代表は誇り””との感覚がない。ただ、『自分たちは国の代表である』というメンタリティこそが、チームに勝つ文化を作りあげるには必要ではないかと私たちは感じました」「若い選手や外国人選手は『君が代』を歌えなかったし、曲自体は知っていてもきちんと歌う選手は少なかったんです。でも、日頃から『君が代』の歌詞を覚え、その意味を理解したり、メンバーみんなで歌うトレーニングを取り入れたりしました」「たとえば、君が代の歌詞には『君が代は 千代に八千代に さざれ石の巌（いはほ）となりて...
その結果、以前は「君が代」を口ずさむことすらなかったメンバーたちも、堂々と、ときには目に涙を浮かべながら「君が代」を歌うように。こうした積み重ねによって、選手たちが日本代表としての誇りを持ち、気持ちを高揚させて試合に臨んだことが、チームを勝利に導く一因にもなった。なお、この文化は、メンバーやスタッフが変わろうとも、現在の日本代表メンバーにも継承されているという。周囲の大きな期待を背負ってグラウンドに立つ。そんな強いプレッシャーと日々戦う「どんな人でも、メンタルは鍛えないと強くはなりません。ただ、逆に言えば、誰でも理論に基づいてトレーニングすれば、メンタルは鍛えられます。具体的には、アスリートたちが自らが直面する問題を解決する能力をスキルとして習得できれば、メンタルは強くなる。私たち専門家の仕事は、まさにそのスキルを鍛えることです」たとえば、荒木が就任した際のラグビー日本代表チームにしても、当初は「自分よりも体格の大きい選手との接触が怖い」「ボールを落としたらどうしようかと怖くなる」などという恐怖心を抱く選手も少なくなかったという。そこで、まず荒木が選手たちに提案したのが、「自分でコント
「人が一番不安になるのは、先がどうなるかわからないときと、自分ができることと期待されていることに差があるときです。ならば、いま自分が抱く不安の根源には、どんな期待があり、自分は何を成し遂げたいと思っているのかを分解していくと、対処法が見えてきます。たとえば、相手の体格が大きくて怖いなら自分の体重を増やして体格差を減らしてフィジカルを強くすればいいし、ボールを落とすのが怖いなら、手を挙げて準備するのと同時に『ハンズアップ』とキーワードを唱えるなどすれば成功する確率は高くなります。自分でコントロールできないことをくよくよ悩むのではなく、自分ができることの成功率を上げるにはどうしたらいいかを考えて練習中にメンタルのトレーニングも取り入れることで、恐怖心や不安も同時に解決していくことができるのです」2023年9月10日、チリ戦の前の日本代表のロッカールームにて。稲垣啓太選手のユニフォーム。Photo: Justin Setterfield - World Rugby/Getty...
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