その理由について渡辺は「本当の苦しさや悩みをドラマで描けるのか。ドラマにしていいのか、という葛藤が僕のなかであったからです。唯一、アルツハイマーが題材の映画をプロデュースしました。それを書いたメールでお断りしたんです。すると北川さんから3倍くらい長いメールが返ってきまして。北川さんも病と向き合って執筆活動を続けて、患者と医者の思い、ただつらいだけでなく喜びとは…を置き手紙のように書きたいんです、という思いを受けて、参加させていただきました」と出演に至った。
ドラマ『オレンジデイズ』以来20年ぶりの北川作品に参加する妻夫木も「北川さんの世界観は独特でファンタジックでもあるけどこういう世界があったら、こういう相手がいたらいいな、と、自分と重ね合わせて入っていけるような印象を持ちました。俳優とはフィクションを扱う仕事ではあるけど『うそを真実にしてもいいんじゃないか』と思える台本でした」と希望を感じた脚本だったという。繰り返される手術と抗がん剤治療にうんざりした成瀬は陸に「殺してくれよ」と頼み、あっさりと承諾した陸だったが、「でもその前に、やりたいことはありませんか」と提案。バイクで旅に出た2人はキャンプをしたり、生まれた街へ行ったり、初恋の人に会ったり…人は何のために生き、何を残すのかという永遠の問いの答えを求めながら各地をめぐることとなる。
今作は「陸の再生物語」だとする渡辺は「幸せってそんなに大きなものではない。夜、寝る前に布団に入る時間が幸せだったり、そんな瞬間の積み重ね、小さい幸せを日々見つけていかないといけないんだ、と思いました。僕自身も大きな作品に出ることができたりすることも喜びですが、人間としては些末(さまつ)な日々のなかに誰にでもある幸せをみつけたい。それがこのドラマでは数多く描かれていた気がしました」と自らと重ね合わせた。 続けて「(自分の意識が)違うことに向くようになってきちゃったのかもしれない。親としてやることは用意しているけど、子どもたち自身、どう育つかはわからない。そういう相談も(渡辺に)していたんですけど『俺もそういう相談はある女優さんにしたんだけど、そんなことよりも役に集中しなさいって言われた』って聞いて面白かった。健康で元気でいてくれたらそれで十分です」と和やかな笑みをみせた。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)や映画『怒り』(2016)など同じ作品に出演することがあったが本格的な共演はこれが初めて。クランクイン前には妻夫木が渡辺の家に泊まり、交流を深めた。
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