これから始まる大学生活でみなさんが獲得するものは、これまでの学校での学習とは性質の異なるものになるでしょう。大学は、確立した知識をただ学ぶところではありません。なぜなら学問は、未知なるものに挑む試みだからです。過去に遡って世界と人類の歴史を明らかにする、現在の社会・文化を分析する、過去から未来にもつながっていく生命の仕組み、宇宙や物質の真理を探究するなど、東京大学はさまざまな未知に取り組んでいます。
医学や神経科学の分野では、人びとの脳の機能や行動の差異を一義的にではなく、多様性の形として尊重することも重要だとされています。ニューロダイバーシティとよばれるこの考え方に基づくと、発達や学習において、疾患や障害とされているような脳の機能も、ひとが持つ多次元の特性のひとつとしてとらえなおすことができます。また同じ疾患でも、困難を感じる機能とその程度が、個人ごとに異なることを前提にしてはじめて、個々のニーズと状況に応じた対策が可能になります。たとえば、工学分野である半導体の微細加工技術を用いたマイクロ流体デバイスの開発と、医学の分野における、さまざまな臓器由来の細胞培養の研究は、一般には異なる学問分野と考えられています。しかしながら、私自身の研究では、これらの分野の境界をこえ、マイクロ流体デバイス上で臓器由来の細胞を培養し、薬の効果をテストすることが可能となりました。壇上に座っておられる南學正臣医学部長と共同研究をしたこともあります。この分野はOrgan-on-a-Chipとよばれますが、一見異なる学問分野の知が交差する場所で、これまでにない発見やブレイクスルーが起こることを示しています。
このように、特定の属性を持つひとが、等しい機会を得られずに排除され、あるいは人一倍の努力をせざるをえない状況を「構造的差別」といいます。この構造的差別から脱却すべく、経団連は、2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にする目標を掲げました。東京大学も、2020年に30% Club Japanのメンバーとなり、UTokyo Compassにおいても、学生における女性比率を30%とすることや、新たに採用する研究者の女性の割合を30%以上とし、教員における女性比率を向上させるという目標を明記しています。 最初に述べたように、学問は未知への挑戦から始まります。ここに集まった新入生のみなさんが、「構造的差別」のいまどこに位置しているのかを知ることは、それぞれにとって最初の宿題かもしれません。構造を知る者は、同時に、その構造を変える力を持ちます。ぜひ、現在の社会構造をみんなで望ましい方向に変えていくにあたって、自らが持ちうる力を探っていただきたいと思います。
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