雨上がりでぬかるんだマウンドでも、ダルビッシュは大谷への意識を隠そうとしなかった。第1打席から、多彩な持ち球を両コーナーへちりばめた。1回無死一塁。膝元へのスライダーでストライク。二盗された後、外角へ逃げるように沈むスプリットで空振りを奪うと、フォーシームなどを挟み、最後は内角低めへ93マイル(約150キロ)の高速カットボールで空振り三振に仕留めた。進塁打すら許さない、円熟味あふれる7球だった。
外角へのスプリットで三飛に抑えた第2打席の背景は、ダルビッシュ自身が「解説」した。ボールが先行し、カウント3-0から内角低めのスライダーを大谷は空振りした。「とにかく四球だけは嫌だった。それが3ボールになって、ボール球を振ってくれて、わざとだと思うんですけど」。打席の大谷の思いは、ダルビッシュにも伝わった。「思いっきり勝負したかったですけど…。2打席目が終わった後、(大谷が)僕の横を通った時にも、ボールばっかりで申し訳ない、と言ったんですけど、もっと気持ちよくストライクゾーンにどんどんいきたかったです」。すれ違った際、ひそかに「謝罪」したのも、お互いの思い、そしてファンの期待を理解しているからこそだった。
だからこそ、1-3と逆転された後の第3打席は、全球ストライクを投げ込んだ。最後はカウント0-2から、外角へのカットボールで空振り三振(ファウルチップ)。最速95マイル(約153キロ)、2奪三振とも大谷相手と、明らかに力の入れ具合は異なった。「やっぱり大谷くんが来ると、日本にいた時をちょっと思い出すというか、そういう個々の対決の楽しさというのは思い出させてくれてるかなと思います」。 前日の試合前には、グラウンド上で大谷、山本と約15分間にわたって談笑。敵味方を超えて、和やかな時間を過ごした。「楽しかったですね。大谷くんも結婚されて、多分いろいろと肩の荷が下りたじゃないけど、隠さなくていいところが増えたと思うし、すごく明るい感じもします。いろんなこともあると思いますけれども、その中でも野球に集中して、笑顔で前向きにやってるの見ると、自分も元気になる」。優勝争いのために、打倒ド軍は最低条件。その一方で、大谷との対戦だけは、心から楽しみたい。たとえ、三振に仕留めても、豪快な1発を浴びても、ダルビッシュは心の中で笑っているのかもしれない。【四竈衛】
◆大谷対日本人投手 ダルビッシュとの対戦は3月20日(韓国開催)以来2度目。前回は2打席で遊ゴロ、右前安打だった。1試合に3打席対戦して3打数無安打は21年7月22日の前田、21年7月17日と22年5月28日の菊池に次いで3人目、4度目。
ダルビッシュ有 パドレス 【四竈衛】 大谷翔平 日刊スポーツ
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