米国のテスラや中国のBYDなど電気自動車(EV)が、自動車市場を席巻しているようにみえる。だが、EV市場は「バブル」であり、崩壊が近づいていると指摘するのは国際投資アナリストの大原浩氏だ。緊急寄稿で大原氏は、トヨタ自動車など日本メーカーが最終的に覇権を握るとの見方を示す。8月28日の米国株式市場で、ベトナムの新興EVメーカー、ビンファストの時価総額が日本円で一時、約28兆円に達し、テスラ、トヨタ自動車に次ぐ世界第3位になったと報じられた。EVバブルを象徴する出来事であるが、まさに崩壊の瀬戸際にあると筆者は考える。2015年にドイツでディーゼル車の排ガス不正問題が発覚した。それに懲りずに「新たなる日本車潰し」の意図を持って行われたのが、「完全EV化」である。日本勢が得意とするハイブリッド(HV)車やプラグインハイブリッド(PHV)車を排除して、電気のみを使って走る車(BEV)にできるだけ限定しようとする圧力が、その意図を明確に示している。HVやPHVは、エンジンでの駆動エネルギーを効率的に回収できるので環境により優しい可能性があるにもかかわらずだ。
米民主党政権もイデオロギーの観点から、EV化にも注力している。本来、日本政府はこのような外圧に毅然(きぜん)とした姿勢で日本企業を守るべきである。ところが21年1月、菅義偉首相(当時)が国会で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明した。 「日本車潰し」を意図したEV化だが、中国企業を勢いづかせることになってしまった。EVの世界販売トップが中国のBYDであるだけでなく、トップテンに中国企業が6社も入っている。2位は米国のテスラだ。欧州勢は大いに焦っていることだろう。 日本勢はトップテンに入っていないが、心配はいらない。EVバブルが崩壊するのは確実だからだ。巨額な補助金がなくなれば、ガソリン車やHVなどの「消費者に優しい」自動車が勝利するのは確実である。特に、環境に優しいHVおよびPHVは次世代自動車の本命といえる。HVの市場はトヨタなど日本勢の独壇場であり、結局のところ世界の覇権を握るのは日本企業である。
トヨタがEVに熱心でなかったのは「現状のバッテリーの性能では消費者が満足する自動車をつくれない」という信念に基づく。そして、27年〜28年にも全固体電池の実用化を実現する方針を発表した。まだ未知数の部分はあるが、10分以下でフル充電し、航続距離1000キロ程度(従来型EVの約2倍)を目指しているという。もしこれが実現すれば「消費者が満足するEV」として、あっという間に他のEVを蹴散らすだろう。これは、多くの日本企業に通じる「日本精神」といってもよいものである。日本人は、ディベートやプレゼンが下手だとよく非難されるが、見てくれよりも「中身」を重視するだけのことである。日本人は「日本人のやり方」で世界で勝負すればよいのだ。販売台数で4年連続世界首位のトヨタは、これからますます躍進するはずである。
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