虫歯は感染症であり、主に母親から子供へ伝染するといわれています。虫歯の主な原因菌であるミュータンス連鎖球菌は糖質を好み、代謝産物として乳酸を生成します。この乳酸が歯のエナメル質を脱灰し、虫歯を引き起こすというわけです。
虫歯の古い記録としては、5400万年前の原始霊長類の化石に虫歯が見つかっています。見つかった虫歯の割合は7.5%で、果物の消費量が多い年代に虫歯が増えている傾向があったとのこと。一方、恐竜の歯には虫歯の痕跡がなく、これは果物があまり食べられていなかったことと、耐酸性のあるフッ化アパタイトが恐竜の歯のエナメル質に含まれていたためと考えられます。虫歯が増加したのは18世紀頃で、穀物や砂糖の摂取が増えた 以降とされています。考古学的データによると、農業への移行により、多くの集団で健康状態が悪化し、虫歯が増加したことがわかっているそうです。遺伝学的研究でも、農業の始まりとミュータンス連鎖球菌の増加時期が一致しているとのこと。そして産業革命以降になると砂糖の摂取がさらに増加し、現代に至るまで虫歯は人類にとって深刻な問題となっています。
フロリダ大学歯学部で口腔生物学を研究していたジェフリー・ヒルマン教授は、1970年代から虫歯予防を目的としてミュータンス連鎖球菌を研究してきました。ヒルマン教授らの研究チームは、1980年代初頭にミュータンス連鎖球菌の変異株から、他菌の増殖を抑制する「ミュータシン」を大量に産生する株や、乳酸を産生しない株の分離に成功しました。