青森県鰺ケ沢町の秋田犬「わさお」が6月8日午後5時54分、多臓器不全のため息を引き取った。不細工だけどかわいい「ブサカワ犬」として全国的な人気を集め、幅広い年齢層から愛された。暮らしていた同町のイカ焼き店「きくや商店」には花束を持った多くのファンが訪れ、死を悼んだ。「わさおプロジェクト」の工藤健さん(52)も、涙に暮れた1人。人気犬の生涯に寄り添ってきた13年を振り返り、「わさおがいた風景」として随時連載でお届けします。「わさおプロジェクト」の工藤健さん(52)は「もう、ビックリの一言。スタッフもそうそうたるメンバーで、ドリームチームでした」。名だたる女優男優の視線を浴びながら、役者「わさお」は堂々と演じきった。
映画製作のきっかけは、プロデューサーが旅行先として「きくや商店」を訪れ、「わさおの映画を作ろうと思っています。企画を動かしても構いませんか?」と直談判。工藤さんは「新手の詐欺かなと思いました。きつねにつままれた気分でした」。信じ難い展開に、製作会社に裏取りも行ったほど。10年10月に本格的な撮影がスタートした。 逃走劇から幕を開けた。クランクイン初日、わさおは山中に行方をくらました。スタッフ総出で約20分の「山狩り」。わさおの行き着いた先は、発情中のメス犬だった。工藤さんは「何かあった時に、わさおを誘導するために連れて来ていました。母さん(故菊谷節子さん)に叱られていました」と懐かしそうに笑った。
周囲の心配をよそに、わさおは初シーンから一発OK。世界遺産で青森、秋田の両県にまたがる白神山地の大木の前に出現し、眠りにつく演技を求められた。工藤さんは「『そんなことできるの?』と思いましたけど、やってしまうんだよ。わさおは」。映画監督も固唾(かたず)をのんで見守る中、迫真の演技を披露した。「俺の解釈なんだけど、わさおは『俺が主役なんだ!』っていうのを1発目で知らしめたんだと思う」。最後まで大物俳優の風格感を漂わせながら、主演の大役を果たした。
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