僕にとっては、それもブックデザインの大事な引き出しのひとつ。一般の書籍で表紙に使う装画の方向性をディレクションする時など、記憶の中にある絵本の、具体的な色やデザインでなく「イメージ」が思わぬヒントになったりもするんです。最近、出会ったのは『ルイーズ・ブルジョワ』を描いたイザベル・アルスノー。色づかいやモチーフ選びにデザインのセンスを感じます。でも、絵そのものは主人公の夢想が広がっていくさまを筆の赴くままに描いた感じで、「絵本の絵とはこういうもの」という枠にとらわれない奔放さが魅力だな。僕が主宰する「装画塾」でも、生徒には「あなたにしか描けない絵で本の世界を立ち上がらせて」と伝えています。きれいに枠の中にまとまる、無個性なイラストじゃなくてね。
『キツネと星』の端正な造本には、「くう~、悔しい、僕もこういうのやってみたい!」のひと言。隅々までデザインの目が行き届いていて、本とデザインが好きでたまらない人がつくったんだろうなとわかる。見返しに印刷された木と葉のパターンもため息ものの凝りようで、吸い込まれるように眺めてしまいます。作者自身がグラフィックデザイナーだと知った時には、「やっぱり!」と膝を打ちましたね。『あらしのよるに 点字つき さわる絵本』きむらゆういち 文 あべ弘士 絵 講談社 2017年『あらしのよるに』は、オリジナルの絵本が出た時からずっと僕がデザインを担当。多彩なバージョンがあり、2年前には点字版も完成しました。文だけでなく絵も隆起印刷で表現されています。『だるまさんが』はシリーズ合計で600万部を超えました。書名の「が」の色丸と、ゆったりした字間で、本の個性を出しています。
坂川栄治●アートディレクター/装幀家。1952年、北海道生まれ。雑誌『SWITCH』のアートディレクターを経て装幀家に。世に送り出した本は6000冊以上。吉本ばななの『TUGUMI』など、13冊以上のミリオンセラーを生んだ。古い石づくりの家を一点に据えた見開きの構図を固定し、百年という時間の経過を見守る、ちょっと異色の絵本です。大きな判型だけど絵はすごく細かく描き込んであって、一つひとつのディテールまで見ごたえ十分。ただ、これだけリアルなタッチの絵で想像力を刺激する絵本をつくるのって、本来は難しいはずなんだよね。でも、この本は「定点観測」と緻密な描き込みとの組み合わせで、読者にいろんな思いを呼び起こす。すごい本です。巨大なクモのモニュメントで有名な彫刻家の一生を描いた絵本なんだけど、僕は、主人公より本を描いたアルスノーにびっくりしました。上の場面のように、川の流れを表現する強い個性のある線と、いわゆる絵本らしい絵が混在していたり、五線譜や方眼の上に絵が描かれたり、すごく自由奔放に見えるのに、色数を抑えて一冊の絵本としてうまくまとめている。これができるのは非常に優れたデザインのセンスがあ
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