工房長(58)と、2人の副工房長の小林美穂さん(32)、高橋香澄さん(26)だ。寡黙で存在感ある松橋さんに、快活で芯の強い小林さんや高橋さんは敬意を払い、創作を支える。工房内には柔らかな音色のBGMが流れ、職人の「縦社会」とは異なるフラットな空間がそこにある。秋田銀線細工は直径0.2ミリメートルほどの細い銀線を2本ほどより合わせ、ロールで圧力をかけて潰し、平らにして形づくる。先の細いピンセットや指先を使い、渦巻き状に巻き、デザインに合わせ枠にはめ込む。純銀の特色を生かした繊細な美しさが特長だ。
その歴史は江戸時代まで大きく遡る。秋田藩には院内(湯沢市)や阿仁(北秋田市)などに鉱山があり、良質な金や銀を産出した。職人らが武具やキセル、かんざしなどをつくった。小林さんらによると、秋田銀線細工と呼ばれるようになったのは戦後。その伝統は昭和から平成、令和に受け継がれてきた。松橋さんがこの世界に入った約40年前には十数人の職人がいた。だが現在、「私たちが知る限り県内に7人が残るだけ」と小林さん。高齢化も背景にあるが、販路開拓による所得向上など、若者が魅力を感じる環境を整えてこなかったツケも響いている。 16年から「海外にも通用する工芸品のブランド化」を検討し、3人の思いを全面的に後押ししてきたのが秋田商工会議所だ。秋田銀線細工のデザインコンペ、プロモーション動画の制作、新商品開発のプロジェクトを展開してきた。佐藤裕之副会頭は「こうした伝統工芸が絶えると、地方の産業史や特色も失うことになる」と指摘する。
人材育成に加え、3人がいま大切にしているのが消費者の声だ。「耳を傾け、時代に合ったデザインを採り入れていく必要がある」と高橋さんは強調する。そのため、クラウドファンディングを使って募った資金支援で新たな設備を購入した。
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