畑が呼び起こす親への感謝(鏑木毅)

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私の両親は畑作や養蚕の専業農家だった。貧乏暇なしとは子供の頃の我が家のことで、両親は私に構っている時間はなかった。ひらがなの五十音は小学校で習えばいいと考えて教えられたことはなく、入学当初から私は授業についていけなかった。小学3年の夏に自転車事故で左腕を大けがし、手術のため1週間入院した。ちょうど養蚕の繁忙期と重なり、両親は自宅から離れた病院に一度も見舞いにきてくれなかった。けがの不安と寂し

小学3年の夏に自転車事故で左腕を大けがし、手術のため1週間入院した。ちょうど養蚕の繁忙期と重なり、両親は自宅から離れた病院に一度も見舞いにきてくれなかった。けがの不安と寂しさから病院の屋上で泣きじゃくっていると、知らない夫婦が慰めてくれて、うれしかったのをよく覚えている。そのためか口を開けば常に泣き言や仕事の不満を漏らし、生活を「楽しむ」などという余裕は全くなかった。幼なじみの父は高校教師で、遊びに行くと子供にもわかるように政治や経済について話してくれた。親戚同士で会う機会がある夏のこの時期、自分の両親もこうだったらよかったのにとうらやましかった。農業は、作物の生育を左右する天候に常に気をもんで気の休まるときがない割に、最低限の生活をするのもやっとの収入しか得られない。子供心に嫌気がさしていた。

このままだと自分も同じような人生になるのでは、と恐れを抱いた。抜け出す方法といっても具体的に思いつかず、ただ目の前のことに全精力を注ぐしかなかった。自分は地頭もぱっとせず、運動も下手、何事にも要領が悪く、不器用だった。勉強やスポーツを頑張ればこの境遇から脱出できるはずだと思い、ただ必死に努力した。内心では親をどこか小バカにしつつも、面白くもないのに土にまみれて畑で働く両親の姿を思うと、親を裏切る勇気も出ず、自分もおとなしく真面目にこつこつと頑張るしかできなかった。一日、農作業に励むと自然相手の仕事だからか不思議と気が晴れる。あれほど忌み嫌ったこの仕事も悪くはないと思う。そして忙しくても近くの山や本屋に連れて行ってくれた両親は、彼らなりに懸命に自分を育ててくれたのだな、と感謝の思いでいっぱいになる。畑を眺めながらしみじみと感じた。

 

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