Powell氏によると、犬が人間の精神的健康に与える影響を調べた過去の研究は、ほとんどが「特定の時点における犬の飼い主と犬を飼っていない人」の精神的健康状態を評価していました。ところが、この方法では本当に犬を飼い始めることで孤独感が和らげられ、幸福になるのかどうかを判断できないとPowell氏は指摘。また、そもそも「犬を飼おうとする人は精神的に健康である」という可能性も排除できず、必ずしも過去の研究を取り上げて、「犬は人間の孤独感を和らげて精神的健康を向上させる」とはいえないとのこと。
そこでPowell氏らの研究チームは、「犬を飼う前」「犬を飼い始めてから3カ月が経過した時」「犬を飼い始めてから8カ月が経過した時」という3つのタイミングで、被験者の精神的健康を測定するという実験を行いました。研究チームはシドニーに住む71人の成人を、「犬を飼いたいと思っており、実験開始から1カ月以内に犬を飼い始めるグループ」「犬を飼いたいと思っているが、実験期間終了まで犬を飼わないことに同意したグループ」「犬を飼うことに興味がないグループ」の3つに分けました。そして、まだ全員が犬を飼っていない実験開始時と、犬を飼うグループだけが犬を飼っている実験開始から3カ月後、そして実験開始から8カ月後のタイミングで、気分や孤独感、心理的苦痛などについての評価を行いました。
それぞれの時点における精神的健康状態を比較した結果、新しく犬を飼い始めたグループは他の2つのグループと比較して、犬を飼い始めた後に孤独感が減少することが判明。この効果は犬を飼い始めてから3カ月以内に現れ、実験が終了する8カ月後まで持続したとのこと。 一方、犬を飼い始めたグループでは緊張や苦痛といったネガティブな感情が少なくなる傾向がみられたものの、この点についてはそれほど有意な差はありませんでした。また、うつ病や不安障害などの症状については改善がみられなかったそうですが、Powell氏は「私たちの実験では、犬を飼うグループの人々は犬を飼い始める前からすでに心理的苦痛のレベルが低かった」と述べており、この点が結果に影響を与えた可能性もあります。