【東京】戦跡など人類の悲しみの歴史をたどる観光「ダークツーリズム」に沖縄版で先鞭(せんべん)をつけて発信を続ける書籍「観光コースでない沖縄」。その出版元である高文研(千代田区)に50年を超えて関わり、同書の出版から改訂などに携わってきた出版人・山本邦彦さん(70)が3月いっぱいで退職、一区切りをつける。復帰50年に当たっての書籍「いま沖縄をどう語るか」をこのほど上梓(じょうし)した。「最後に取り組んで、いい原稿が集まった」。公私ともに節目を迎えた。出版の着想はふいに訪れる。「81年に沖縄大学と教育セミナーを開いたのがきっかけ。県外参加者もいて戦跡と基地を一日で巡った。講師らと夜、オリオンビールを飲みながらこういうのは本にしようと」。言うは易(やす)いが、尽きぬ苦労と孤軍奮闘の末、本は誕生した。基地を見て、壕に入る。沖縄戦追体験の旅で手がかりになる一冊と評価される。
これを機に高文研ではこれまで沖縄に関連する書籍を約120冊出版してきた。全国へ沖縄を伝える都内の出版社として沖縄の時々刻々を伝えている。時宜にかなう出版は「5人の社員」が対応し、全国への沖縄発信源の役割を担った。 約40年、沖縄本にこだわり、手掛けて「一点一点が印象深い」と言う。そして最後に上梓した書籍は、法政大学沖縄文化研究所の創立50周年記念シンポジウムがベースだ。副題の「ジャーナリズムの現場から」の通り、シンポに登壇した地元紙とテレビ、通信社の記者5人が自らと沖縄との関わりを交え、沖縄のリアルを伝える。 「沖縄を再び戦場にさせない」。同書の帯の文句は「執筆者5人の今の思いですんなり決まった」と言う。シンポにはない要素をと、改めて原稿化を促し書籍ならではの面白みが加味された。携わった書籍でも思い入れのある一冊になった。
間もなく退職とはいえ、気がかりもある。1992年に初版を出版した「沖縄修学旅行」は10年超改訂されていない。県内も開発が進み、様変わりした。次世代への継承のため「沖縄案内みたいなのはきちっと作っておいたほうがいい」。静岡県から上京し、学生時代から高文研に関わって52年。「人脈を頼っていろいろ垣間見ることもできた。面白かった」。節目に当たり、振り返った。
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