川崎重工は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて水素に注目し、「水素サプライチェーン構想」を打ち出した。水素を次世代エネルギーとして実用化するため、液化水素運搬用大型タンカーの設計・建造を進めているという。
加藤氏は、「水素は無毒・無臭であると同時に、使用する際にCO₂を出さない“究極のクリーンエネルギー”であり、産業やモビリティなど幅広い分野での脱炭素に貢献する」と、その可能性に期待を込める。枯渇の心配もなく、長期貯蔵や長距離輸送が可能なメリットもある。 2050年までのカーボンニュートラル実現のために、再生可能エネルギーの活用は急務となっている。しかしながら、風力や太陽光発電だけでは安定したエネルギーの確保は難しい。川崎重工は、「様々な所でつくれて、運んで貯めることのできるエネルギーである水素」に注目し、「脱炭素化およびエネルギーの安定供給に対する“切り札”」(加藤氏)と位置付けている。 日本政府は2017年に水素社会加速化の実現に向けた「水素基本戦略」を打ち出した。昨年には改定が行われ、2040年までに年間1200万トンの水素を導入するという目標が設定されている。官民合わせ、今後15年で15兆円が投資される計画もあるという。水素の大量導入に伴い、海外からの輸入水素が不可欠となる。海外から水素を効率よく運ぶためには、キャリア変換が必須だ。川崎重工は水素を液化して運搬する方法に注目。水素はマイナス253℃で液化し体積は800分の1となる。常温で気化させれば、様々なアプリケーションに活用できるメリットもある。同社では、これまで培ってきたノウハウを基に液化水素のサプライチェーン構築を目指す。カギとなるのは、同社が長い間「LNG運搬船と液化水素貯蔵タンクの製造で培ってきた高性能な断熱技術」(加藤氏)だ。
2022年2月には、オーストラリアでつくった水素を液化し、マイナス253℃に保ったまま日本に運ぶパイロット・プロジェクトに成功した*。将来は1度に約1万トンもの液化水素を運べる大型運搬船を複数隻就航させ、大量の水素を複数のルートで日本に運ぶ計画だとしている。ロケット燃料や石油精製などの産業分野における水素の利用は従来から行われてきた。現在は、燃料電池車(FCV)やバス、家庭用燃料電池(エネファーム)などにもその活用範囲が広がっている。「近い将来には、航空機や鉄道などのより大きなモビリティや、発電などにも利用を広げることが水素社会の実現につながる」と加藤氏は話す。
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