東京レインボープライドという「場」──連載:松岡宗嗣の時事コラム

  • 📰 GQJAPAN
  • ⏱ Reading Time:
  • 1 sec. here
  • 6 min. at publisher
  • 📊 Quality Score:
  • News: 18%
  • Publisher: 53%

連載:松岡宗嗣の時事コラム ニュース

Lgbtq,ジェンダー / Gender,プライド月間

「東京レインボープライド2024」が、4月20日、21日に東京・代々木公園で開催された。ライターの松岡宗嗣がリポートする。

松岡宗嗣が見た、「東京レインボープライド2024」 性的マイノリティの権利と尊厳を讃える「東京レインボープライド2024」が開催された。約27万人が来場し、約1万5千人が渋谷の街を行進した。 今年は4月19から21日の3日間開催予定だったが、1日目は強風により中止という波乱のスタートだった。ここまで準備を重ねてきた主催団体にとっては苦渋の判断だったと思う。ブース出展者、特に飲食ブースからも落胆の声が多く聞こえた。 2日目は快晴だった。私が初めて東京レインボープライドに参加したのは2014年。今年もイベント会場入り口に設置されたアーチをくぐりながら、約10年間、毎年のように参加していたことを思い起こす。 少し歩くだけで「久しぶり」と何人もの人に出会い、それだけで気分が高揚した。年に一度、ここまで生きてこられたことを確認し合うような気持ちになる。ここにいるはずだった人がひとり、またひとりといなくなってしまったことを実感し、もう二度と会えない人の顔を思い出す。...

松岡宗嗣が見た、「東京レインボープライド2024」 性的マイノリティの権利と尊厳を讃える「東京レインボープライド2024」が開催された。約27万人が来場し、約1万5千人が渋谷の街を行進した。 今年は4月19から21日の3日間開催予定だったが、1日目は強風により中止という波乱のスタートだった。ここまで準備を重ねてきた主催団体にとっては苦渋の判断だったと思う。ブース出展者、特に飲食ブースからも落胆の声が多く聞こえた。 2日目は快晴だった。私が初めて東京レインボープライドに参加したのは2014年。今年もイベント会場入り口に設置されたアーチをくぐりながら、約10年間、毎年のように参加していたことを思い起こす。 少し歩くだけで「久しぶり」と何人もの人に出会い、それだけで気分が高揚した。年に一度、ここまで生きてこられたことを確認し合うような気持ちになる。ここにいるはずだった人がひとり、またひとりといなくなってしまったことを実感し、もう二度と会えない人の顔を思い出す。 日本で初めてプライドパレードが開催されたのは1994年。今年で30周年となる。今より厳しい社会状況の中で声をあげ、運営の難しさなど、ときに中断しながらも今日までプライドを繋いできた人たちの弛まぬ努力に思いを馳せる。 東京レインボープライドは、「場」だ。それは、性という側面から、社会の隅に追いやられてきた人たちが、「ここにいる」と存在を可視化したり、抗議したり、制度を求めたり、お互いの存在を讃えあったり、祝福したり、同じ思いや、または違う思いを持った人たちが集い、社会に声をぶつけるための場だと思う。 今年も会場やパレードに参加した人、または参加しないと決めた人、それぞれの思いを見ていきたい。 出展ブースや企業協賛の増加 例年にも増して出展ブースは増え、普段はパレード整列場となっているイベントスペース外にある並木道にもブースが立ち並んでいた。 会場は企業ブースが目立つが、性的マイノリティの居場所、子育て、教育、医療福祉などさまざまな LGBTQ +関連団体のブースも軒を連ねていた。コミュニティのブースは企業ブースより出展費用が下げられているという。 昨年まで、会場の中心はきらびやかに装飾された企業ブースが立ち並び、 LGBTQ +コミュニティのブースは端の方に追いやられている、という批判の声が少なくなかった。今年はそうした声を受けてか、会場中心から周辺まで、企業とコミュニティブースが混在するような配置の工夫がされていたように思う。たまたま会場に足を踏み入れた人や、試供品をもらうために企業ブースをまわるような人にとって、偶然の出会いがあれば良いなと感じた。 一方で、例年以上の混雑のなか、落ち着いて話を聞いたり相談したりしたい人にとっては、むしろ会場の中心より周辺にあるブースの方が足を踏み入れやすい側面もあったのではないだろうか。会場配置はそれぞれ一長一短があり難しい。 今年の東京レインボープライドへの協賛企業・団体数は314にのぼったという。企業の参加が増えることに対し、商業主義化しているという指摘がある。日本に限らず、近年、世界各都市のプライドパレードも同様の批判がされている。 企業の参加が増えることで、社会に与える影響のインパクトが大きくなることには、一定の意義があると思う。企業ブースが並ぶことで、当事者も非当事者層からも、東京レインボープライドへの参加のハードルが下がったという声を耳にする。 誰のための・何のためのプライドなのかわからなくなってくる、という声も、年々聞くようになった。 実際、会場を歩いていると、企業ブースの担当者から「お兄さん」「お姉さん」といった見た目で性別を決めつけて話しかけられる機会が増えていると感じる。年に一度、特にトランスジェンダーやノンバイナリーの人にとっても安心できるはずの場が、むしろ期待するからこそ、傷つけられる場になっていないかと懸念する。 一部企業ブースの中には、単に自社の試供品のサンプリングをしてように見えるところもあった。ロゴをレインボーにするという工夫こそあるが、「プライドはマーケティングイベントではない」という指摘の声もしばしば聞こえる。 東京レインボープライドが終わったあと、果たしてどれだけの企業が、普段から性的マイノリティをめぐる社会状況を改善するためにアクションをとってくれるのだろうか。例年、そこかしこで言われているが、 LGBTQ +にとって、一年のうちこの日だけ“自分らしく”生きられれば良いわけではない。 冒頭、久しぶりの人に会えて気分が高揚したと書いたが、すでに誰かと繋がれている人にとっては、またはお金があり企業で“活躍”できる当事者にとっては、東京レインボープライドは楽しみやすい場かもしれない。一方で、繋がりがない、孤独を感じる人がこの場を楽しめるか、繋がりを持てる場なのかは、(さまざまNPOや当事者コミュニティのブースはあれど)わからない。 または LGBTQ +と言いつつも、シスジェンダーのゲイをはじめ男性中心な空間になっているのでは、という指摘もある。昨今、トランス女性に対するバッシングが激化するなか、トランス女性を中心としたブースや、または連帯を示すようなところはあまり見かけなかった。さまざまなジェンダーやセクシュアリティの人にとって居心地が良い場になっているかは疑問もある。 非常に混雑した会場に入れず、「ブースの裏手にいるしかなかった」という車椅子ユーザーの声もあった。障がいのある LGBTQ +の当事者で、パレード自体に参加することが難しいという人もいる。 何のための場か 企業ブースを見て回ると、普段からジェンダー・セクシュアリティの視点や社会性について意識を持ち活動しているような代理店と協力し出展しているところもあった。企業側も少なくない費用を負担し、単に自社のアピールの場にならないようにと、試行錯誤している様子も見えた。 「企業」と言ったとき、そこには無味無臭の物体があるわけではなく、働く当事者がいることも忘れてはならない。内実を見ると、職場環境を改善するために、社内に反対の声もあるなか交渉を重ね、何とかブース出展に至っているようなところもある。 主催者側も約27万人という非常に多くの、そして多様な人が集まる「場」を安定的に運営し続けるためには資金が必要で、企業との関係性が重要になる。その一方で、企業のプレゼンスが高まれば高まるほど、そもそも何のための・誰のための場所なのかという批判にもつながっていく。 ソーシャルセクターなど、社会的な活動を行う組織が、資金調達などの関係で、当初の目的から遠ざかっていってしまうことを「ミッション・ドリフト」という。企業の協賛、または公的資金であっても、意図の有無を問わず多くの非営利団体にとってこの壁は常に立ちはだかるものと言えるが、特に規模の大きさから東京レインボープライドへの注目度は高い。 海外のパレードを見ると、日本ほどブースに力が注がれているところはあまりなく、基本的にプライドパレードは「デモ」であり、路上を歩くマーチが重視されている。イベント会場での“お祭り”的な形態は珍しい。 企業が中心となっている点は各国でも問題視されていて、それを受けてか、例えば私も参加したオランダ・アムステルダムのプライドでは、 LGBTQ +の難民のフロートや、より一層社会の周縁に置かれている人たちや人権団体が前方に位置付けられていた。 今年の東京レインボープライドでも、パレードの先頭はろう者で LGBTQ +のグループが歩き、その後、婚姻の平等を求めて活動するMarriage For All Japanのフロートが続いていた。 元来、パレードは政治的なものであるはずなのに、東京レインボープライドの掲げるテーマや姿勢は政治性を排しているという指摘が例年のようにあがっていたが、今年のテーマは「変わるまで、あきらめない。」だ。明確に法制度を変えることも目的としていた。 何十万人もの参加者、何万人もの行進、これだけの企業や団体、大使館、ステージ出演者、当事者コミュニティ、あらゆるステークホルダーと調整し、さらに会場にある2つのステージを運営することがどれだけ大変かは想像に絶するものがある。 企業の力を用いて、その規模を拡大させることによる社会的インパクトは大きい。政治は一向に変わらないが、世論としては婚姻の平等への賛成が多数になっていたり、あまり関心が高くない人からも「渋谷で毎年パレードやってるよね」という声が聞こえてくる。この社会の認識の変化に、東京レインボープライドという場は大きな貢献を果たしているだろう。 商業化し肥大化しているプライドは、何のための・誰のためのものなのかという視点は、運営組織だけでなく、ブース出展者、参加する一人ひとりにも常に考えられてほしいポイントだと思う。 ピンクウォッシュ もう一つ、今年特に東京レインボープライドと企業の関係をめぐって問われたのが「ピンクウォッシュ」の問題だった。 ピンクウォッシュとは、イスラエル政府がパレスチナの占領という“負のイメージ”を覆い隠すために、 LGBTQ +フレンドリーというイメージを使ってきたことを批判的に表した言葉だ。 昨年10月7日以降のイスラエルによるガザへの攻撃により、約3万5千人が死亡したと報じられている。現在も虐殺は激化している。 東京レインボープライドに協賛している企業の中には、イスラエルとの関係性からボイコット運動の対象となっているところが複数あり、 LGBTQ +の人権と言いながら、他方で虐殺に加担してしまっているのでは、という批判の声があがっていた。 今年、イスラエル大使館による東京レインボープライドへのブース出展はなく、一部指摘されている企業の協賛やブース出展も見送りになるなど、TRP側も批判を受けて対応を行った。ただ、他にも関係している企業があるという指摘を受けて出した「声明」に対しては、不誠実だという声も少なくなかった。 イベント当日、会場付近や渋谷ハチ公前では、パレスチナ連帯のデモも行われ、「NO PRIDE IN GENOCIDE(虐殺にプライドはない)」との声があがっていた。 東京レインボープライド会場内でも、パレスチナへの連帯を示すため、黒い服で参加したり、即時停戦やパレスチナ解放を求めるバッジをつけて参加する人が、(参加者全体から見るとごく一部だが)少なくなかった。 各ステージでも、黒色の衣装を身につけた司会や、パレスチナ連帯のシンボルとして用いられているクーフィーヤを身につけてパフォーマンスをするドラァグクイーンもいた。パレードでも、虐殺やピンクウォッシュに反対といったメッセージのプラカードを掲げて歩く人もいた。 一人ひとりが「場」をつくる 筆者は過去、東京レインボープライドにボランティアとして参加したことがある。イベントの主催団体も当日スタッフも、それぞれが普段は別の仕事を持ち学校に通いながら、これだけの規模のイベントを毎年続けている。そこには想像を超える苦労があると思う。毎年さまざまな批判や指摘を受けながら、各所と調整し工夫を重ねながら実施している点に感服する。 ただ、日本の LGBTQ +シーンを象徴する機会とも言える東京レインボープライドにかけられる期待は大きく、その分、企業との関係やプライドが出すメッセージには重みがある。 プライドパレードの本拠地とも言えるアメリカ・ニューヨークでは、毎年NYCプライドマーチが行われているが、2019年から「クィアリベレーションマーチ」という別のパレードが行われるようになった。 そもそもプライドパレードの発端は警察への“反乱”だったことに立ち帰り、商業的な側面が強まるプライドに対抗し、企業協賛や警察の参加しないマーチになっている。各国ではこうしたオルタナティブな形を模索する動きもある。 繰り返しになるが、東京レインボープライドは「場」だ。より良い場にするためにこそ、批判的視点を持ち、主催団体に改善を求めていくことは重要だ。同時に、どんな場にしていくかは、運営側だけでなく、ブースを出展したり協賛したり、参加したりする個々人にも委ねられているはずだ。参加する一人ひとりが歴史や現状を知り、この場所や社会に何を求めていくかを考え、アクションを積み重ねていくことが重要だと思う(4月24日記)。 松岡宗嗣(まつおか そうし) ライター、一般社団法人fair代表理事 1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する「一般社団法人fair」代表理事。ゲイであることをオープンにしながらライターとして活動。教育機関や企業、自治体等で多様な性のあり方に関する研修・講演なども行っている。単著『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。 編集・神谷 晃(GQ)

Lgbtq ジェンダー / Gender プライド月間 Akira Kamiya

 

コメントありがとうございます。コメントは審査後に公開されます。
このニュースをすぐに読めるように要約しました。ニュースに興味がある場合は、ここで全文を読むことができます。 続きを読む:

 /  🏆 71. in JP

日本 最新ニュース, 日本 見出し

Similar News:他のニュース ソースから収集した、これに似たニュース記事を読むこともできます。

仲村トオル、グルメドラマ勘違いキャラで心境地『飯を喰らひて華と告ぐ』実写ドラマ化(2024年4月22日)|BIGLOBEニュース俳優の仲村トオル主演のドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』が、7月よりTOKYOMXで放送されることが発表された。足立和平氏による同名グルメ漫画(白泉社「ヤングアニマルWeb」連載…|BIGLOBEニュース
ソース: shunkannews - 🏆 17. / 63 続きを読む »

仲村トオル、グルメドラマ×勘違いキャラで心境地『飯を喰らひて華と告ぐ』実写ドラマ化俳優の仲村トオル主演のドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』が、7月よりTOKYO MXで放送されることが発表された。足立和平氏による同名グルメ漫画(白泉社「ヤングアニマルWeb」連載)が原作。仲村は、男気…
ソース: sakigake - 🏆 88. / 51 続きを読む »

1972年札幌五輪 風船スケーターの開会式、日の丸飛行隊、笑顔の妖精がいた冬を振りかえる<記憶の光景>連載「記憶の光景」は北海道新聞の記者とカメラマンが撮影し、昭和初期から保存している約250万枚の写真をテーマごとに紹介します。4回目の今回は札幌が大きく発展するきっかけとなった「1972年札幌冬季五輪...
ソース: doshinweb - 🏆 31. / 63 続きを読む »

連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」上 イベント定着、吉本頼み 作品より芸能人に脚光 減る出品「映画見てない」連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」上 イベント定着、吉本頼み 作品より芸能人に脚光 減る出品「映画見てない」 - 琉球新報デジタル
ソース: ryukyushimpo - 🏆 13. / 68 続きを読む »

連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」上 イベント定着、吉本頼み 作品より芸能人に脚光 減る出品「映画見てない」連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」上 イベント定着、吉本頼み 作品より芸能人に脚光 減る出品「映画見てない」 - 琉球新報デジタル
ソース: ryukyushimpo - 🏆 13. / 68 続きを読む »

エンタメ発信 幅広く お笑い、音楽、アートも 「沖縄の魅力 世界に伝えた」<連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」・中>エンタメ発信 幅広く お笑い、音楽、アートも 「沖縄の魅力 世界に伝えた」<連載「終幕 沖縄国際映画祭を振り返る」・中> - 琉球新報デジタル
ソース: ryukyushimpo - 🏆 13. / 68 続きを読む »