サブタイトルの『「現代」を生きた歌舞伎役者』は、同時代に生きているわたしたちが見た二代目中村吉右衛門の芸が、歌舞伎の古典から現代にも通じる「人間」をつかみ取った名演で、近代から現代へ歌舞伎の歴史的価値を転換した功績と指摘。伝記でも、劇評の記録でもない。著者の観劇と劇評人生の膨大な時間と見識の積み重ねから発見した吉右衛門の芸の細部にわたる考察といってよい。多くの役の「断片」にこそ「神が宿る」とまでいいきる。そう断定する文章は、吉右衛門の訃報で足元が崩れ落ちてゆく喪失感を覚えたという、衝撃的な筆致から始まる。
辛口の劇評家として知られる著者なのに「聞いていてゾクゾクするような面白さに思わず立ち上がって拍手」(組討)、「顔が実に美しかった。熊谷より盛綱よりこの顔が一番」(関の扉)、「聞きほれる、他の人では退屈なくだりがあっと言う間」(寺子屋)とあり、その理由をすぐに読みたくなる。また「俊寛を父とした家族の形成を吉右衛門で学んだ」(俊寛)、「たった一本の煙管が落ちただけで電撃が舞台を走る」(沼津)、「松王丸の本心の深層に達することによって、現代と古典の関係に転化した」(寺子屋)など著者が吉右衛門の芸から学び取った発見も新鮮だ。 さらに芸の円熟を経年で描く。「河内山」では「初代の名調子とは違うが漢語交じりの堅い戯曲を掘り下げ初代以上」(平成3年)、「凄味で背筋がゾッとした。芝居運びの骨格をつかまえた当たり芸」(11年)、「五十回忌まで初代の顔に似ていないと思っていた」(15年)、「顔が初代そっくり。芸が進んで初代の河内山を身体化できた吉右衛門の至芸」(20年)と詳細に記録する。ひとりの役者の芸を愛(いと)おしんだ本書は亡優に捧(ささ)げる名著であり、同時に作品を詳述し、吉右衛門の芸から学べる「極上の歌舞伎ガイドブック」ともなっている。(慶應義塾大学出版会・3520円)
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