今回の点検は2020年12月の金融政策決定会合で実施を表明した。日銀が「金融緩和の後退方向の議論ではない」(若田部昌澄副総裁)とくぎを刺すなか、市場では米金利上昇に連動した長期金利の上昇をどこまで容認するのか、上場投資信託(ETF)の購入抑制にどこまで踏み込むのかといった副作用対策に関心が集まった。
打ち出された政策修正の中身をみると、随所に為替対策の意図も垣間見える。最たるものが、日銀が貸し出し原資を供給する金融機関の当座預金に上乗せ金利を付ける「貸出促進付利制度」の創設だ。日銀が短期政策金利を下げると反対に上乗せ金利が増える仕組みのため、銀行収益に与えるダメージは軽減されるという。「リバーサル・レート」(利下げが景気にマイナスに作用する金利水準)が近いとみる市場に深掘り余地があることをみせて円高をけん制しつつ、日米金利差の縮小などで円高が加速した場合には機動的に動けるようにした。 公表文で追加緩和の手段に「長短金利の引き下げ」と明記し、短期金利だけでなく0%程度に誘導している長期金利の基点も引き下げうると改めて表明したのもポイントだ。為替市場が着目する日米金利差の対象が、状況によって短期金利だったり長めの金利だったりする点を踏まえた。長期金利の一定の上下動を促す変動幅見直しについても「金利上昇容認と受け取られ、足元の円安の流れを止めたくない」という思惑から、プラスマイナス0.2%程度から同0.25%程度への微修正にとどめた。
最近の円相場は1ドル=108~109円台で推移し、20年度の企業の想定レート(12月短観で106円台)より円安に振れている。いま円高到来に備えるのはやや奇異に映るが、振り返れば政策点検を表明した当時の円は1ドル=103円台で政府・日銀の「円高警戒感も強かった」(経済官庁幹部)。このころから、金融政策の原案を練る企画ライン(担当理事―局長―課長)は点検の目的の一つとして円高対応力の強化を狙っていたフシがある。焦りの背後に円高への危機意識の強い菅義偉政権の影もちらつく。日銀の点検表明後には金融緩和に積極的な「リフレ派」の審議委員をさらに送り込むことを決め、日銀に無言の圧力をかけ続ける。「円高が進んで官邸が『なんとかしろ』と言ってくれば、深掘りせざるを得ないかもしれない」。ある大手銀行の幹部は日銀関係者がこう漏らしたのを鮮明に覚えている。為替に神経をとがらせる政策運営が点検後も続く。
…今後は、円安対応も? (´・ω・`)?