電波信号は、それよりも……不可解だ。ある信号を見ただけでは、「ああ、ひじだな!」とはわからない。そこでMITの研究チームは、賢い次善策を考案した。電波信号を浴びる人間を同時に記録するカメラを設置したのだ。「この画像から、人体の主なポイントを抽出できるのです」とカタビは言う。「映像を解析して“注釈”のように使い、電波信号を処理しているニューラルネットワークの教師役として利用します」
動画で訓練されたAIはその後、混沌とした電波信号を動画と照らし合わせ、ラベリングされた人体の各パーツを、壁を透過して戻ってくる微妙な電波反射と関連付けられるようになる。「子どもに算数の問題を教えていると、突然賢くなり、あなたが解けない問題を解けるようになるのを想像してもらえればいいと思います」とカタビは語る。最終的に完成するのは、いくつもの点によって視覚化された人間だ。それぞれの点は、膝や肩といった身体の各部に該当する。それを棒状の人形に変換し、壁越しにいる人の動きを詳細に描画するという仕組みだ。描画はかなり細かく行うことが可能で、人それぞれに特有の輪郭や動作のスタイルを特定する。実際に83パーセントの確率で個人を特定できるほどだ。「位置だけではありません。正確な動作もわかります」とカタビは言う。「例えば、歩き方の特徴に注目すれば、ちょうど指紋で人物を特定するのと同じように、ある人と別の人を区別できるのです」
こうしたシステムは確かに、悪人の手に渡ればプライヴァシーが侵害される恐れもある。だが用途によっては、プライヴァシーを守るのに役立つ可能性もあるのだ(公正を期すために言っておくと、研究チームの集めたデータはすべて個人を特定できないものであり、暗号化もされている)。 このシステムを使用すると、高齢患者の睡眠や食事、運動のスケジュールや苦痛の兆候などを、対象者をわずらわせることなく把握できるかもしれない。「この対極に位置する手法を考えてみてください。家の至るところにカメラを配置し、同様の情報を集めるという方法もあるのです」とカタビは語る。なんといっても、この無線電波システムは衣服に影響されない。このシステムが描き出すのは、棒人間にすぎないからだ。
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