最初に登場するのが、アメリカGMの自動運転部門を担う「GMクルーズ」という会社が作った「オリジン」という自動運転カー。このクルマ、実はホンダが開発に協力していて、2023年のモビリティショーのホンダブースで見かけたという人も多いだろう。まあ公共交通に使う自動運転車は箱型のバスに近いから、オリジンを引き合いに出すのは反則かもしれない。ならばこれをご覧いただこう。こいつこそ「どっちが後か前か分からんクルマ」の草分け、フィアットのムルティプラだ。もともとフィアット600という小型車がベースだからそれは仕方ないのだが、衝撃的なのはやはりそのスタイリング。フロントが絶壁のように立ち上がり、リアに向かって傾斜するから、真横から見るとどういても「後ろが前」なのだ。
フィアットは1998年にも、ムルティプラを名乗るクルマを発表しているが、こちらも「世界一ブサイク」というスゴイ称号を手に入れた。ある意味「個性のないクルマなんか作らん」というイタリア人のプライドを感じさせる傑作車ではある。さて、日本にも同種のクルマはないものか。前後対称といえば、初代コペンやトヨタのSAI(兄弟車のレクサスHS250hも含む)なんかがいい線言っていると思うのだが、いまひとつ凄みに欠ける。 というわけで登場するのが、スズキのキャリイバンだ。まずは1968年に登場した3代目。スズキが始めて作ったボンネットのない商用バンで、愛くるしいお目目とその下にある空気取り入れ口がゆるキャラの顔みたいだ。そしてその造形をさらに磨き上げたのが、翌1969年に登場した4代目キャリイバンだ。うおおおお! これぞ日本が誇る「どっちが後か前か分からんクルマ」の王者ではなかろうか。ボディのペキペキ感が増して、前後対称のイメージがいっそう強まっている。この4代目キャリイバンは、電気自動車にコンバートされ、1970年に開かれた大阪万博ではパトロールカーに使われたりもした。前後が分からないスタイリングは、未来を見せる万博にさぞや似合ったに違いない。