口元にひげを蓄えた〝オールドルーキー〟は気迫をみなぎらせ、あふれる野心をプレーにぶつけた。２７日まで行われたサッカーの東アジアＥ―１選手権で、横浜Ｍの水沼宏太が３２歳で代表デビューを果たした。かつて日本代表で７得点を挙げ、主将も務めた貴史氏（６２）を父に持つ。プロ１６年目で偉大な父と同じ土俵に立ち、「国を背負って戦うことってこんなに幸せなんだと改めて感じて、ずっと居続けたいと素直に思った」と日の丸への思いを強くした。合宿初日の１７日。練習冒頭のランニングで、水沼は当たり前のように主将の谷口彰悟（川崎）とともに先頭を走った。初代表でありながら、佐々木翔（広島）と並ぶチーム最年長。「自分はまとめる立場ではないかもしれないけど、いろんな選手とコミュニケーションを取れるのがいいところ。一体感を持って戦える集団の一員になれればいい」。緊張感がにじむ若手に進んで声を掛け、あちこちで笑顔の輪を生み出していた。
その姿勢は、泥臭いサッカー人生の中で身に着いた。１７歳のとき、下部組織を過ごした横浜Ｍでプロキャリアをスタートした。世代別代表には選ばれていたが、Ｊ１屈指のクラブでは満足のいく出場機会を得られなかった。１０年途中にＪ２栃木へ期限付き移籍すると、その後も浮き沈みを味わいながら鳥栖、ＦＣ東京、Ｃ大阪と渡り歩いた。 新たな仲間といち早くなじみ、試合に出るためにどう振る舞うべきか。経験を重ね、「最初が肝心と自分は思っている。最初にどれだけ自分のことや性格を知ってもらえるか。逆に知ってもらえれば、思い切りぐっと自分を出せる」と答えを見つけた。同時に「チームのために戦うことが大好きで、自分らしく戦える」と気づき、献身的でハードワークをいとわないプレースタイルが出来上がった。
２０年、貴史氏も活躍した横浜Ｍに１０年ぶりに復帰した。３年目の今季は３トップの右サイドとして定着。仲間の足元にピタリと合わせる、右足からの高精度クロスで得点を演出するだけでなく、ゴール前での冷静さも光る。リーグ戦では第２２節までで５得点６アシストをマークし、６月には初のＪ１月間最終選手を受賞。首位を走る攻撃的チームを牽引（けんいん）する姿が森保監督の目に留まった。
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