ウルトラマンとは何者か?【美術評論家 椹木野衣の視点】|Pen Online

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【新着】ウルトラマンとは何者か?【美術評論家 椹木野衣の視点】

そもそもの話になるけれども、ウルトラマンとはいったい何者なのだろうか。まっさらな気持ちで、初めてウルトラマンを知るように、ウルトラマンについて考えてみることは可能だろうか。ウルトラマンを既存の事実として語るのではなく、未知のものについて探り当てるように、そんなふうに書いてみることはできないか。

だが、それが大変難しいのだ。というのも、このウルトラマンなるものが、決して短くはない年月を経て、私たちの脳裏にあまりにもしっかりと刷り込まれすぎているからだ。このあらかじめ刷り込まれたウルトラマン像を疑うことなく、それに沿ってウルトラマンを見たり、語ったりすることしかできなくなっているからだ。だからここでは、極力そのようなウルトラマン像を留保して、そのうえで新たなウルトラマンがありうるとしたら、それはいったいどのようなものなのかについて考えてみたい。 まず、最初に捨ててしまいたいのは、ウルトラマンが「ヒーロー(英雄)」である、ということだ。もっとも、ヒーローという言葉自体が広義のもので、なかなか定義することができない。ここでは、せいぜい「正義の味方」くらいのものとしておこう。ウルトラマンはヒーローである以前に宇宙からの来訪者であり、宇宙人なのだから、人類の価値観に対しては一定の距離があるはずで、見方を変えれば、人類のせいで動物たちが苦しみ、環境が破壊されつつある地球のあるべき姿を守るため、人間と敵対してもおかしくはなかった。そうならなかったのは、初回で宇宙から地球まで追いかけてきたベムラーが、地球でいうところの怪獣の姿をしており、それを退治したことをきっかけに、地球で怪獣と呼ばれる存在も、その外見上の類似から悪と同定し、それを倒すことを「使命」と感じたからだろうか。哀れみ、というと人間臭いが、この場合の哀れみというのは、ウルトラマンの故郷が「光の国」であることから連想されるように、仏教的に言えば超人としての仏による人への「慈悲」の念に近い。そこについては、ウルトラマンはあくまで宇宙人であって仏様ではないのだから、理路整然とはいかない

ウルトラマンの超人性が、このように地球から遥かかなたに存在する高エネルギー体=絶対的な光による慈悲と救済に由来するのであれば、もしかすると私たちが知るウルトラマンの姿のほうが、地球に棲む人間の姿に仮託されたかりそめの姿なのであって、ベムラーが地球で呼ぶ怪獣の姿に見えたのは、地球で怪獣の存在に苦しむ人類の無意識が反映された、これも「善悪」という仮象であったかもしれない。 もしそうなら、「ウルトラマン」の初回に登場する赤い球(地球で呼ぶ英雄=正義の味方ウルトラマン)と青い球(地球で呼ぶ悪魔=怪獣ベムラー)のうち、赤い球がウルトラマンの実体なのかもしれない。そこに善悪はなく、あるのは色の違いだけだ。つまり、そこにはおのずと超人類的で「使徒」的な不定形性(アンフォルム)が存在する。その救済がどのようなものなのか、いま私が知りたいのはそのことだ。美術評論家。1962年、埼玉県秩父市生まれ。91年に最初の評論集『シミュレーショニズム』を刊行、批評活動を始める。おもな著作に『日本・現代・美術』(98年)、『後美論』(2015年、第25回吉田秀賞)、『震美術論』(17年、芸術選奨文部科学大臣賞)など多数。現在、多摩美術大学教授。

 

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