これまでFRBは解除について24年以降としてきたが、今回の決定によって1年前倒しになる。金融政策が正式に変更されたわけではないが、量的緩和策の縮小に向けて大きく動きだしたとみてよいだろう。
FRBのパウエル議長は3月の講演で「長期金利の上昇を注視している」と述べたものの、「景気支援策の縮小には程遠い」として緩和策の維持を強調していた。だが、足元ではインフレ懸念が急速に台頭しており、発言からわずか3カ月でスタンスの変更を余儀なくされた格好だ。 米労働省が発表した5月の消費者物価指数は前年同月比で5.0%もの上昇となっており、3カ月連続で2%を上回った。ワクチン接種が順調に進むアメリカでは、企業がコロナ後の景気回復を見据えて先行投資に邁進しており、5月の数字は過熱した投資がもたらす一時的なものとの解釈がもっぱらである。だがバイデン政権は総額5.7兆ドルに達する巨額の財政出動を計画しており、アメリカの景気は今後、堅調に推移する可能性が高い。どこかで腰折れするリスクはあるものの、基本的に金利と物価は上昇トレンドにあると考えてよいだろう。
現在のFRBは雇用を重視しており、景気過熱リスクを背負ってでも雇用の底上げを目指す、いわゆる「高圧経済」路線を採用している。リーマン・ショックからの回復局面においては高圧経済にも合理性があったが、今後も同じであるとは限らない。大量に解雇された労働者がいるにもかかわらず、再就職する人が少ないのは、コロナ危機をきっかけに多くの労働者が仕事に対する価値観を変えた可能性を示唆している(給付金の効果が完全に切れた段階で、この仮説はより明らかになるだろう)。 今後、景気が順調に回復しても、条件の悪い仕事には人が集まらず、労働市場の指標が思ったほど改善しない可能性もある。これが事実なら構造的な変化が発生していることになり、この状況に対して労働指標が改善するまで高圧経済を続ければ、弊害のほうが大きくなってしまう。
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