トランプ前大統領とつながりが深い共和党系のシンクタンクであるヘリテージ財団の試算では、人口がおよそ930万人のニュージャージー州において、マーフィー知事が提唱する「完全再エネ シフト 」で合計11ギガワットの洋上風力発電能力を獲得するには、州民1人当たり8000ドル(約125万円)、総額で740億ドル(約11兆5346億円)の負担が必要だ。インフレ調整後には、さらに高額となる。トランプ氏の「再エネ見直し宣言」は、こうした状況を踏まえたものである。
「バイデン大統領は、採算の取れない再エネ推進で、『光熱費インフレ』をもたらし、コストの負担を住民に押し付けている」「バイデン大統領は生活に必須の電気代を高騰させ、貧しい人のお金を収奪している」と攻撃しているわけだ。■EVは「捕らぬ狸の皮算用」一方、目標の大幅な下方修正を迫られている再エネもまた、EVとよく似た面があるのではないか。 事実、米環境保護庁(EPA)が2023年11月に開催した電力供給信頼性会議において、電力業界関係者から「EPAが2030年から実施する予定の化石燃料による発電の制限は現実的ではない」「電力網の信頼性が損なわれ、破滅的な結果をもたらす」「規制導入までの時間が短すぎる」などの反対意見が噴出したという。
こうした再エネやEVにまつわる一連の動きを見るにつけ、冒頭に紹介した豊田章男氏の冷静な分析の凄さが際立つ。2020年12月の段階で、「EVだけでは脱炭素にならない」「再エネは想像をはるかに超える経済的・社会的コストをもたらす」と、その問題点を正確に看破していたのだから。「クリーンエネルギーへのシフトはもはや止められない」(国際エネルギー機関、IEA)といったメディアで喧伝される「バラ色の将来予測」は、現実に即した冷徹な再計算で見直されるべきではないだろうか。
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