男性の名前は、津田伸一さん(70)。事件現場の京都アニメーション第1スタジオで働いていた長女の幸恵さん(41)の安否を知りたいと、自宅のある兵庫県から駆けつけていました。翌日、自宅を訪れると、父・伸一さんは、自宅にあげてくれました。そして、まだ安否もわからない状態の中「娘のことを知ってほしい」と、幸恵さんの思い出を語ってくれました。その話をきっかけにして、私は、今回の事件で命を落としたクリエーターの、アニメへの真摯な思いを知ることになります。幸恵さんは幼いころ、ぜんそくの影響で激しい運動はできませんでした。幼少期から発作が起きて咳き込み、息ができずに苦しむことが何度もありました。クラスでもほとんど目立つことがない、おとなしい子どもで、学校から帰ると、すぐに好きなアニメを見て、1人で机にかじりつき、鉛筆や色鉛筆を握りしめて、好きなキャラクターを黙々と描いていたといいます。成長とともにぜんそくの発作が収まるにつれ、幸恵さんは自分の将来を真剣に模索していくようになりました。中学や高校時代には、当時好きだったアニメ「るろうに剣心」や「幽☆遊☆白書」などのキャラクターの絵を描いたり、着色したりす
高校卒業後は、大阪にあるアニメ制作の専門学校に、自ら進路を決めて進学し、パソコンを使った彩色技術などについて学びました。幸恵さんはこつこつと努力を重ね、色彩に関する検定にも合格するなど、デザインや色についての深い知識を身につけていきました。趣味でつながった友人と、テレビドラマの作品のロケ地を旅行したり、応援している歌手兼声優のライブに行ったりすることが増え、伸一さんに旅行の話をしたり、土産を買ってきてくれることも多かったといいます。特に伸一さんの妻が2年前に病気で亡くなってからは、1人で暮らす伸一さんを気にかけて、ときどき電話して様子を聞いてくれたり、好みにあった食品など、日常生活で使うものを買ってきてくれたりしたといいます。「お盆や正月に実家に帰った時には、いつも大好きなアニメの仕事について楽しそうに話してくれた。小さいころはつらいことが多かったが、京都アニメーションに入社して本当に好きな仕事をしていたから、気持ちも前向きになっていったと思う」。事件によって、命を落とした幸恵さんが、京都アニメーションでかなえようとしていた夢は何だったのか。伸一さんの話を聞いた後、私は、幸恵さんとゆか
幸恵さんは入社当初、「セル」という薄くて透明な板に絵を転写して、専用の絵の具で色をつけていく作業をしていました。しかし、業界が徐々にデジタル化していくにしたがって、「デジタルペイント」や「特殊効果」と呼ばれる、パソコン上での彩色作業が主な仕事になっていきました。 「デジタルペイント」では、キャラクター上の色づけしたい場所にカーソルを置き、色を指定する工程を繰り返して、色をつけていきます。服や髪などのカゲを表現するために、明るくする部分と暗くする部分の塗り分けなどを行います。「特殊効果」は、絵に立体感や質感を与える役割です。たとえばキャラクターのほほの赤い部分を表現するためにぼかしを入れることができます。また、動きのスピード感や風なども表現することができます。幸恵さんは、キャラクターの瞳の中まで、細かな色を塗り分け、光の表現にもこだわるなど、繊細さが求められる世界の中で、1枚ずつ丁寧に仕上げていきました。さらに、仕事が正確で、手際も良く、入社前からパソコンに詳しかったため、アニメ制作のデジタル化にも対応して、会社にとって欠かせない存在になりました。
幸恵さんはこどもの頃から好きだった「犬夜叉」のほか、「名探偵コナン」、「クレヨンしんちゃん」などの人気作品のほか、「Free!」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」、「響け!ユーフォニアム」など、京都アニメーションが制作した多くの作品に関わり、美しい映像表現を支えました。「経験を積むにしたがって、デジタルペイントでは、ひと月に2000枚ほどを仕上げていた。入社すぐの新人が、ひとつき500枚くらいのペースなので、4倍の早さ。まさに驚異的なスピードで彩色をこなしていた。ミスをしないよう細心の注意を払いながら、正確に、そしてまさに目にもとまらぬ早さで色をつけていく様子は、同じクリエーターとして尊敬の念を覚えた」さまざまな絵画に興味を持ち、残された遺品の中には、アメリカの画家クリスチャン・ラッセンをはじめとする色彩豊かな絵画が、多数ありました。さらに、2つの絵画サークルに所属していたほか、キャラクターデザインや色彩に関する専門書がいくつもの段ボール箱に、ぎっしりと入っていました。「特殊効果の仕事もしながら、スキャン、ペイントとして変わらず続けていきたい。腕と感覚を磨き続けることを忘れずに」。そ
悔しいって言葉では足りません。 言葉では表せない心境です。
こういう遺族の気持ちを伝えていくことは大事だよな
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