約1300年の歴史ある温泉街・山代温泉では江戸時代から、「総湯」と呼ばれる共同浴場を旅館や商店がぐるりと囲む「湯の曲輪(ゆのがわ)」という街並みが形成されてきた。そんな昔ながらの風景を改めて整備するプロジェクトが2010年(平成22)に実現している。
そのきっかけを作ったのが、長きに渡り街づくりに携わっていた建築家・内藤廣。老朽化していた鉄筋コンクリート造りの総湯が建つ場所に、明治時代の趣ある総湯を「古総湯」として復元し、街の人に親しまれていた総湯は自らの設計で古総湯のすぐ目の前に新設。観光のシンボルと地元住民の憩いの場が向かい合う形で、情緒がにじむ温泉街の景色を蘇らせた。2階の休憩室や浴室に「九谷五彩」と称される5色のステンドグラスを配した、木造2階建、寄棟造瓦葺の古総湯は、柱に檜と杉、梁に地松、板材は檜と能登ヒバと、基礎以外は全て木材で作られている。2階の屋根瓦は北陸地方特有の釉薬瓦の古瓦を再利用し、浴室の床や腰壁には九谷焼のタイル、同じく浴室の板壁は北陸地方の民家で見られる拭漆仕上げと、地元の素材や技術をふんだんに使用。
入浴方法は明治時代の総湯と同じ「湯あみ」方式で、カランやシャワーなどの設備がなく、温泉に浸かるひとときをまっすぐに楽しめる。湯の温度は熱めで長湯が難しい分、湯上りには2階の休憩場で涼みながらひと休み。長い時間湯船に体を沈めたり、しっかり体を洗いたいときは、向かいにある〈内藤廣建築設計事務所〉が手がけた総湯を利用するといい。
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