泣した。度重なる故障を乗り越えた背番号１８が復活を遂げた。ヒーローインタビューで奥川の涙腺が決壊した。「本当に長いことファンの皆さんに期待してもらってる中で、すごく長い時間待たせてしまったので、今日勝つことができてうれしい気持ちです。本当に久しぶりだったので緊張しましたし…。この２年という期間の中で…」。あふれる涙。長かったリハビリ期間を思い返すと言葉が出てこなかった。
「内容だけ見たら全然いい登板だったとは言えない」と振り返るように、初回から３回までは毎回得点圏に走者を背負う厳しい展開だったが「開き直って投げた」。最速１５１キロの直球とスライダー、カーブ、フォークを駆使して粘った。失点は４回１死から許した杉本のソロのみ。５回でお役ご免となった。 高卒２年目の２１年に９勝を挙げてリーグ優勝と日本一に貢献したが、シーズン中から右肘痛に悩まされていた。無理をした代償は大きく、翌２２年は３月２９日の巨人戦（神宮）の登板のみに終わった。痛みが癒えて不安が消えた後に、埼玉・戸田球場での練習中に左足首を骨折するなどうまくいかない日々。今年２月のキャンプでは腰痛を発症し、開幕２軍スタートとなった。
けがをした直後は極度の「マイナス思考」に陥った。「当時はもう、どうでもいいやとか、（現役を）辞めちゃおうかなとも思いました。その一方で『いつか報われるんじゃないか』と思える自分もいたので何とか続けてこられた。そうじゃなかったらもう辞めていた。周りの人やチームメートとかお世話になった人に救われた」。周囲に支えられ“引退危機”を乗り越えた。 「この２年間、僕に携わって支えてくれた人たちのためにも、勝ちという形で絶対に恩返しをしたいなと思っていたので、少しはできたんじゃないかなと思います」。リハビリをともにしたトレーナー、チームメート、首脳陣、支えてくれた家族に応えた、この日の７９球。心地よい安ど感に包まれた２３歳の表情は、最後には満面の笑みへと変わっていた。（長井 毅）
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