近鉄をリーグ優勝、オリックスをリーグ連覇と日本一に導いた名将・仰木彬氏(享年70)が死去してから、今月15日で丸9年が経った。その仰木監督の下でブレイクして日本球団を代表する選手に成長し、さらにメジャーでも『伝説』になろうとしているイチロー外野手(41)が同氏との思い出を熱く語った。「『先を見る』。そのタイミングがめちゃくちゃ早い。三塁コーチに出すサインとか、仕掛けるスピードがハンパなかった」監督就任1年目の94年4月28日、福岡ドームでのダイエー(現ソフトバンク)戦。0-3で敗れた試合でイチローは1安打を放った。敗戦後の宿舎へ帰る車中の空気は重い。しかし、バスを降りる際に掛けられた言葉にイチローの心は鷲掴(づか)みされた。仰木の口調をまねながらイチローが20年前のシーンを再現する。しかし、仰木はそのメッセージを選手全員に伝えたわけではなかった。
「監督は僕が自分に厳しい人間だという評価をしたのではないでしょうか。尻叩かれないとやれない選手に対しては試合中でもビンタしてましたから。先輩だったんですけど、試合中にお客さんには見えない、ダッグアウトのちょっと入ったところに呼ばれて、パンッ!パンッ!パンッ!って往復ビンタですよ」「そりゃあ、気ぃなんか抜けないですよ。だって、自分のプレーによって監督が恥ずかしい思いをするかもしれない。『監督に守られてる』っていうのはこういうことですから」「どんな人間かを察知する能力が確実にあって、それに応じて選手を操る。心の掴(つか)み方っていくつかパターンがあるけど、仰木監督はその型が無数にあるように見えた。それがマジックなのかもしれないですね」=敬称略=(小林信行)
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