「1977年に東京に来て、私は空き部屋を与えられ、字幕も英訳もない状態の作品を2日間かけて12作品ほど見ました。2日目には日本語が話せるような気になっていました。理解しなくてはならないとは、もはや考えませんでした。いずれにせよ、私は理解できていました。50作ほどの小津映画を見ましたが、私の記憶ではすべてがひとつの大きな映画という印象です。大きな映画のなかに、さまざまなバリエーションがあるという感じです」「小津監督の作品は時代を完全に超越しています。彼が描く物語はとても現代的で、普通の家庭の日常です。そこで描かれているのは、いまだにでもあるのです。それは父親か母親が亡くなった場合の、残された片親と子どもとの関係性や、一人暮らしをする父親の世話をするために家を出ようとしない娘の責任のあり方などです。映画に出てくる親や祖父母、子どもたちは…何と言えばいいかな、まさに人間の姿そのものだったのです。だからこそ、いまも60年前も、人々は同じように彼の作品を観ることができるのだと思います」「東京物語」に登場する家族の父親の名前は「平山周吉」。離れて暮らす子どもたちに疎まれ、妻にも先立たれ、それでもみ
「1977年に東京に来て、私は空き部屋を与えられ、字幕も英訳もない状態の作品を2日間かけて12作品ほど見ました。2日目には日本語が話せるような気になっていました。理解しなくてはならないとは、もはや考えませんでした。いずれにせよ、私は理解できていました。50作ほどの小津映画を見ましたが、私の記憶ではすべてがひとつの大きな映画という印象です。大きな映画のなかに、さまざまなバリエーションがあるという感じです」「小津監督の作品は時代を完全に超越しています。彼が描く物語はとても現代的で、普通の家庭の日常です。そこで描かれているのは、いまだにでもあるのです。それは父親か母親が亡くなった場合の、残された片親と子どもとの関係性や、一人暮らしをする父親の世話をするために家を出ようとしない娘の責任のあり方などです。映画に出てくる親や祖父母、子どもたちは…何と言えばいいかな、まさに人間の姿そのものだったのです。だからこそ、いまも60年前も、人々は同じように彼の作品を観ることができるのだと思います」「東京物語」に登場する家族の父親の名前は「平山周吉」。離れて暮らす子どもたちに疎まれ、妻にも先立たれ、それでもみずからの人生を静かに受け入れる初老の男性を、俳優の笠智衆さんが演じています。その「東京物語」の公開から70年。ヴェンダース監督は「PERFECT DAYS」で役所広司さんが演じる主人公のトイレの清掃員に、同じ「平山」と名付けました。「主人公の名前が平山なのは、『東京物語』を意識しています。いろいろな意味で小津映画への敬意を込めています。平山はシンプルなものを愛し、自然や、ちょっとした出来事にこだわりを持っています。小津作品の登場人物には、他の誰かよりも優れている人などいません。