畳敷きの大広間に集まり朝までどんちゃん騒ぎ…。今では珍しくなった「昭和型社員旅行」を完全再現し、有用性を確かめようとする試みを研究者らの有志グループが始めた。かつて「経済大国」として名をはせた背景には「日本型経営スタイル」があり、結束を高める社員旅行はその象徴ではないか-。研究者らはこんな仮説に基づき、経済の長期低迷脱却の鍵を探ろうとしている。民間シンクタンク「富士通総研」の池上敦士研究員(33)は米ハーバード大に留学中の昨年、交渉術の授業で、日本社会で重視される「根回し」などが「戦略」として紹介されているケースを知った。社員の親睦を深める昭和スタイルの社員旅行が、日本型経営の象徴だと仮説を立てた池上氏。その強みを探るため、同じくハーバード大に留学中だった電通PRの関口響研究員(30)に企画を持ち掛けた。
関口氏は長年、日本企業のPRコンサルタントに従事し、池上氏と同じ問題意識を抱いていたため参加を快諾。経済産業省などの留学仲間も加わり、7月15~16日、かつて社員旅行が盛んだったハトヤホテル(静岡県伊東市)で実行に移した。池上氏は「裸で温泉に入り、浴衣で開放的な気分になる。己をさらけ出し、互いの人となりを知ることができる極めて有意義な仕組みだと実感した」と成果を強調。さらに仮説を裏付けるため、来夏には数十人規模での実施を計画している。若手社員の間で、会社のイベントを敬遠する傾向が出てきたほか、福利厚生として費用負担することも多かった企業側に経済的余裕がなくなった点も見過ごせない。新型コロナウイルス禍でテレワークが定着したことも踏まえ、「社員同士の顔合わせのチャンス」と位置付ける企業も多い。水際対策の緩和で、海外での社員旅行の問い合わせも増えつつある。
旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、自身が役員を務める会社で実際に社員旅行を企画・実施しており「社長ら経営層と社員がゆっくりと話せる貴重な機会。一体感を高める仕組みとして有効であり、経営判断として再び取り入れようとする動きも今後出てくるのではないか」と述べた。(大森貴弘)
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