――とはいえ、近年では映画『ある船頭の話』(2019)やドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(2021、22)などみずから監督する作品が増えて、それらにはいまの時代になかなか見られないような強烈な作家性を感じます。ついにオダギリさんが時代に逆襲を始めたんだな、と。『ある船頭の話』を作ったときは、たしかにそういう意識があったんです。自分で映画を作るなら、いまの日本映画界が見失っているものを作りたいなって。2000年代の前半ならああいう映画も作られただろうけど、いまの時代にあんなエンタメ性のない作品を作る人なんて誰もいませんから。許してくれる人がいませんよね。だからあれを作ったのは、日本映画に対する挑戦でもあったんです。
『オリバーな犬~』もそうでした。より大衆性が求められ、自主規制やコンプライアンスが厳しいテレビドラマでどこまでやれるのか、とことん挑戦してみたかったんです。しかもNHKで。結局、もの作りにはそういった戦いがともなうんですよね。なにかを壊さないともの作りはできないということなんでしょうし。脚本を書くうえでは、石井裕也監督や西川美和監督のような、これまで出会ってきた作家性の強い人たちに挑むような気持ちでやっています。全然及ばないですけど、負けたくない気持ちだけはある。そういう人たちがいてくれたおかげで、いま自分で脚本を書くモチベーションを持つことができているんだと思います。 ――最新作『月』の石井裕也監督は、オダギリさんがここ10年程でもっとも多く仕事をしてきた監督です。さまざまなジャンルの映画を撮る人で、作家性を見出しにくいタイプのようにも思いますが、どのあたりに強い作家性を感じますか?文字にしたらカッコ悪くなりそうですけど、感性の鋭さですね。ジャンルを越えて、その鋭さはつねに変わりません。ものの見方、感じ方、表現の仕方――とくに『月』はその最たるものだと思います。ここまで突き詰めていく姿勢は他の人にはなかなか見当たりません。僕も石井さんの作品にいくつかかかわってきて、その鋭さにいつも驚かされてきました。
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