現地時間12年4月3日。マリナーズとのデビューを6日後に控え、じっくりと話を聞ける機会に恵まれた。「僕がメジャーに来たのは、夢でも希望でも何でもないんですよ」。じゃあ何かと聞けば「日本球界の地位向上のため」と。世界最高峰の舞台に挑戦したいという思いで海を渡る日本人選手がほとんどだった当時、極めて異質な目的だった。
1年目から有言実行した。いきなり、現在も1年目の日本人投手最多タイとなる16勝を挙げる活躍。当然、13年のWBCでも主軸と期待が集まったが、早々に不参加を表明した。「『ダルビッシュができた』じゃなくて『日本人ができた』と言われたいんです」。メジャーで一定の結果を残した自分が加わって勝っても、日本球界の評価につながらない。日本のためだと信じて、日の丸と距離を置いた。 それから自身もトップランナーとして努力を重ね、大谷、田中、前田ら、たくましい後輩が何人も出てきた。22年の秋だった。同年8月には栗山監督の訪問も受け、23年WBCで侍ジャパン選出が注目される中、家族に漏らしたという。「そら(参加は)難しいよ。でも、佐々木(朗希)君とか山本(由伸)君とかの球を目の前で見れるのはそんな機会しかないから、それだけは見たいな」。その言葉は、日本球界のためという重荷を下ろし、自分のためにフォーカスした瞬間だったと感じた。
山本、今永らはまだメジャーで1球も投げてないのに、超大型契約で迎えられた。佐々木にも登板ごとに、メジャー球団スカウトが大挙する。本人たちの能力でもあるが、背景には「日本の選手なら活躍できる」という信頼もきっとあるはずで、それこそダルを含めた先人が築いたもの。自らの“使命”を実現して金字塔に到達した希代の投手に、心からの敬意を表したい。(野球デスク・西村 茂展)
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