2020年10月30日の午前2時すぎ、鹿児島県の高校1年生だったケンジさん(仮名)は自室を閉め切って練炭に火をつけた。ペットの犬が臭いを感じて吠え、父親が早期に発見して心肺蘇生をしたことでかろうじて命を取り留めたが、彼を自殺に追い込んだのは高校教師の「欠点指導」だった。ケンジさんが通っていた高校では、定期テストなどで平均以下の点数を取った場合、複数の教師から「指導」を受けるルールがあった。生徒は担任教師、部活顧問、教科の担任、学年主任、そして保護者から印鑑を捺してもらうことでようやく「指導」は完了する。
「他の人が『指導』を受けている時は、隣の校舎にいても叫び声や怒鳴り声が聞こえてくるんです。自分も同じような目にあうのが憂鬱で、怖い気持ちは当然ありました。平均点を取れなかった他の生徒も、みんな怯えていました」「担任や教科の先生はスムーズに終わり、“印鑑集め”の最後が学年主任の教師でした。廊下には全部で50人くらいが並んでいて、自分は10番目から15番目くらい。1人ずつ生徒指導室に呼び出されて入るのですが、中からは怒鳴り声も聞こえてこず、1人あたりの時間も1分くらいで、それほど長くは感じませんでした。自分の順番が来て、『自分も怒鳴られないといいな』と不安な気持ちで部屋に入りました」「いきなり『なんでこんな成績になったんだ!』と言われました。学年主任の先生と話すのは初めてでしたが、怖いという気持ちしかありませんでした。一通り謝って印鑑を捺してもらう紙をだしたら、今度は担任の印鑑がなかったことを責められました。担任と部活の顧問が同じなので印鑑が1つしか捺されていなかったことが気に入らなかったようです」「圧を感じて話せずにいると、A先生は机をドンと叩きました。それが怖くて、もう何も考えられない
生徒指導室の前で並んでいる他の生徒には、誰がどう怒鳴られたのかは筒抜けだ。思春期の高校生にとって「恥ずかしい」気持ちも強かっただろう。その日は部活があったが、ケンジさんはやる気が出ずそのまま帰宅したという。「帰る途中も、帰ってからも1人で部屋の中で凹んでいました。ベッドで横になって考えているうちに、自分はダメな人間で、ダメだから勉強もできないんだとどんどん思いつめていきました。知らない生徒にも恥ずかしいところを見られて、学校に行きたくないな、とも思いました。だって紙に印鑑が1つあるかないかでいきなりブチ切られるって、理不尽じゃないですか」「自責の念がどんどん強くなって、『死んじゃえば楽になるんじゃないか』という思いが頭から離れなくなっていました。学校でも家に帰っても、ずっと死ぬことばかり考えていました」
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