コラム:ウィーワーク混乱に見るカリスマ創業者崇拝時代の終幕
Antony Currie
[ニューヨーク 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 共有オフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーは、創業者のアダム・ニューマン氏が君臨する時代が幕を閉じた。経営危機という結果を伴ってだ。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は22日、同社取締役会が、後ろ盾となっているソフトバンクグループ<9984.T>から総額100億ドル近い支援策を受け入れる道を選んだが、ウィーの評価額はピーク時の470億ドルを83%下回ったと伝えた。これでウィーが利益を生み出せる土台を築けるかどうかはまだしばらく判明しそうにない。ただ株主らは、ニューマン氏が創業者として悪あがきするのを防ぐ態勢は確保できた。
ソフトバンクはニューマン氏から10億ドル相当のウィー株を買い入れ、同氏が抱えるJPモルガンからの借り入れの返済に充当できるように5億ドルを融資する。またいわゆる顧問料として1億8500万ドルを支払う。こうした取引を通じて、ソフトバンクはニューマン氏から経営権を買い取るのと引き換えに、事実上の「手切れ金」を渡したと言える。
ただ他の株主や社員は怒り心頭だろう。結局のところ、ウィーが一時日の出の勢いになったのも、足元で破綻寸前に陥っているのも、ひとえにニューマン氏の責任だった。支援者たちも当初は、ニューマン氏の「世界の意識を引き上げたい」などという訳の分からない発言も受け入れた。しかし、要するにウィーは不動産事業だという点をしっかり見据えなかったことで市場の熱が冷め、新規株式公開(IPO)を中止せざるを得なくなった。
利益相反の要素も多々ある。ニューマン氏が所有する不動産をウィーにリースしたり、商標料として590万ドルを受け取っていたことなどだ。もっとも後者は、アドバイザーが何とかIPO計画を救おうとする過程で、返済を余儀なくされた。一方、ウィーが昨年つぎ込んだ現金は22億ドルと総収入を上回った。
IPOの手続きを通じてウィーの内部の動きが厳しい目にさらされたおかげで、一般の投資家は泥沼にはまり込むのを避けられた。とはいえソフトバンクは、以前に出資した際と同じぐらい困った立場に置かれている。これは自らが壮大な構想を持つ投資家にとって教訓になるはずだ。
もう1つ、ある企業の誰かが外部の投資家の資金を何のチェックも受けずに自由に処分するのを許してしまう危険性も学べる。ソフトバンクも、ベンチマーク・キャピタルなどの比較的初期にウィーに出資した投資家も、そうした面では自分たち以外を責めることはできない。
ニューマン氏のようなカリスマ性を備えたハイテク企業の創業者は、まるで神のように扱われる。ところが彼らが常に大きな組織を切り盛りするのに適した人物とは限らない。例えばベンチマークは、ウーバー・テクノロジーズにおけるトラビス・カラニック氏のケースでそれを認識しなければならなかったのだ。もはや創業者を盲目的に崇拝する時代ではない。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループは、共有オフィス「ウィーワーク」運営のウィーカンパニーの経営権取得に合意した。[nL3N2773ZV]
*WSJによると、ソフトバンクはウィーの創業者で最近最高経営責任者(CEO)を辞任したアダム・ニューマン氏から10億ドル相当の株式を購入するほか、ニューマン氏に対して5億ドルを融資し、顧問料として1億8500万ドルを支払う。同氏は取締役会メンバーからも退く。
*さらにソフトバンクは、ウィーの社員と株主から最大20億ドル相当の株式を買い取る。この取引はウィーの企業価値を約80億ドルと評価している。ソフトバンクも参加した今年1月のウィーの資金調達ラウンドにおける評価額は470億ドルだった。
*ソフトバンクは、ウィーに約束していた15億ドル規模の追加出資も加速させるとともに、50億ドルをウィーに貸し付ける。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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