新国立競技場に日の丸を掲げる。男子の「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」で1位になった中村匠吾(27=富士通)がレースから一夜明けた16日、代表に内定した20年東京オリンピック(五輪)で銅メダル獲得を目標に掲げた。日本男子の表彰台は92年バルセロナ五輪銀メダルの森下広一以来、遠ざかる。自国開催の五輪。持ち味である暑さの耐性、終盤のスパートを生かし、低迷が続く日本マラソン界の希望の光となる。

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27歳バースデーの壮大な誓いだった。この日が誕生日の中村は、記念のケーキを日本陸連などからサプライズで贈られた。照れくさそうに笑い、ロウソクの火を吹き消した。内定を決めた1年後の大舞台の抱負を聞かれると、寡黙な男は決意をにじませた。

中村 数年の五輪や世界選手権をみると、1位と3位の選手は多少の差がある。3位は十分狙える隙がある。昨日のような勝負を作れれば、銅メダルに届く可能性はあると思う。

色を銅とするのは、控えめでなく、現実的に見つめる証し。エリウド・キプチョゲ(ケニア)が持つ世界記録は2時間1分39秒。マラソン12戦11勝という異次元な34歳が、五輪に出てくれば、さすがにかなわない。しかし、他は大きく実力差は開いていない。状況は厳しいと分かった上で条件、展開に恵まれれば、チャンスは見いだせる。

根拠はある。まず暑さへの耐性。体にたまった熱を外に逃がすことに優れる天性の体質を持つ。だから、28度以上になったレースも「天候にも恵まれた」と笑う。もちろん対策を怠るつもりはない。「本番は35度とかになってもおかしくない。35度になると体感も変わってくる。準備も進めていかないと。日ごろから高温多湿の環境で練習したりするのはすごくアドバンテージ」。海外勢が力を発揮できない暑さが増せば、増すほど、好都合となる。

課題も明確に見えている。MGCでは上り坂が続く最後の2・195キロを出場選手中最速の6分18秒で走り、勝負を決めた。「五輪本番も、どこかのタイミングで自分から動かすレースをしたい」と見据える。ただ鬼スパートの逃げ切りを再現するには、そもそも中盤まで上位にいることが必要。加えて脚をためておく地力もいる。「世界と戦うには上でスピード面の余裕度を作らないと」と話す。

今から55年前の東京五輪。円谷幸吉が獲得したメダルも銅だった。国中を感動の渦に包み、大会のハイライトの1つとして今も語り継がれる。瀬古利彦、野口みずきと希代のランナーを輩出した三重県出身の男は「どこまで挑戦できるか、今はすごい楽しみ」。男子マラソンは最終日。メダルならば、閉会式の新国立競技場に日の丸が揚がることになる。確実に歴史の1ページとなる。【上田悠太】