色とそれに対応する音をすべて記憶しているため、音の変化によって色を感じることができる。「色覚としての音」は周囲の環境音や人の声などと明確に区別でき、彼にとって視覚や聴覚から完全に独立したまったく別の感覚なのだという。寝ぐせのついた金髪をかき分けて、アンテナと頭部とを接合する部分を見せてもらった。金属でできた正方形の土台が、地肌にネジ止めされている。柔らかい人間の肌と、半導体基板の一部のようにしっかりと留められた硬く平たい部品。相容れない要素を組み合わせた異様な眺めに口ごもっていると、顔を上げたハービソンが言った。欠けているものを補うためにアンテナを付けたわけではないと、ハービソンは強調する。彼にとってサイボーグになることは、新たな器官を手に入れ、感覚を拡張して「動物に近づけるよう進化する」ことだ。ハービソンの灰色がかったグリーンの目は明るく透き通っているものの、色を映すことはない。1982年に英国で生まれたときから、彼が肉眼で見ているのは白と黒のグラデーションで構成された景色。スペイン・カタルーニャで育っていた幼少期までは、世界に色が溢れていることを知らなかった。「一色覚」という先天性
それから3年ほどすると、彼が認識できる色の範囲は360音、すなわち360色に広がった。彩度と音量を対応させ、鮮やかさの度合いを知ることもできるようになった。さらに3年後の2010年には、コンピューターを使わなくても色を音に変換できるようになっていた。チップを後頭部に載せて、骨伝導で聴けるようにしたからだ。 「色を『知りたい』わけじゃなかった。体で受け取って『感じたかった』んだ。機械が教えてくれるのは知識であって、感覚じゃない。ぼくにとって意味のある感覚を得るためには、デヴァイスとして装着するだけではダメで、骨に埋め込むのが一番だと思った。脳がプロセス(情報を処理)すること、それを『感じる』というんじゃないかな」手術にこぎつけるまでには数年かかった。医師たちは興味をもちこそすれ、倫理的な理由で首を縦に振らなかったからだ。希望する手術の内容をまとめ、地元バルセロナの生物倫理委員会に提出したが、拒否された。
「お金もちだからサイボーグになれたんでしょう、という人もいるけどそうじゃない。ぼくの家は貧しかったからトレーラーで暮らしていたこともあるし、学生時代はパソコンを買うのに友だちからお金を借りなきゃいけないほどだった。手術の費用はショップやレストランの清掃をしたりして稼ぎ、何年もかけて毎月、少しずつ返済したんだ」
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