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もし夢の中にいるときに大きく揺れたら…黒田信哉アナが地震体験

#防災やってみた
  • 2022年12月7日

これまで車中泊や、在宅避難など様々なケースをアナウンサーがぶっつけ本番で取り組んできた「防災やってみた」。今回指名されたのは私、黒田信哉。確かにおはよう日本のリポーターや地域局のキャスターとして防災・減災報道に携わってきたが、なぜ私なのだろうか。

担当ディレクターは「黒田さんにぴったりなんです!」と力説するが、いやいや、そんな防災体験があるわけがない。

…と思っていたが、ふだんからの備えも含め、改めて考え直す貴重な機会となった。
(アナウンサー/黒田信哉)

到着したのは…

例のごとく、行先も内容も知らされないまま連れてこられた先は「本所防災館」。
その存在は知っているが足を踏み入れるのは初めてだ。

促されるまま進んだ先に待っていたのは、工学院大学教授の村上正浩さん。素敵な笑顔が印象的な先生だが、このときばかりはその笑顔が怖かった。
なんでそんなにうれしそうなんですか、先生。

いきなり「寝てください」

笑顔の先生が示した先にあるのは布団。え?布団?

「さあ、黒田さん。寝てください」

アナウンサーとして15年以上働いてきたが、初対面の人にいきなり寝てくださいと言われたのは初めてだ。嫌な予感しかない。このまま寝て私は一体どうなってしまうのか。

ただ、ここまで来てジタバタしても仕方がない。寝るしかない。用意されていた枕や毛布、クッションは思った以上に柔らかく、疑心暗鬼の私を優しく包み込んでくれた。

突然私を襲ったのは

「黒田さん、目を閉じてリラックスしてください」

指示に従って目を閉じると室内もほぼ真っ暗になり、私は撮影中であることを忘れて夢の中に足を踏み入れ始めた。おはよう日本のリポーターを担当して通算7年。自慢ではないが、どこでもすぐに寝られるのは私の特技の一つである。
緊張で凝り固まった筋肉と意識がゆっくりと弛緩していく。

暗視カメラでの撮影

しかし深く夢の世界に入り込む前に私は現実に引き戻された。

ぐらっ

「なにっ!えっ!?…」
声も出せないくらいの強い揺れで体が左右に振り回される。

目を開けても暗くて周囲の状況が確認できない。起き上がることもできない。恐怖の中で私はただただ両手を床について、時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。

あまりにも無防備

揺れが収まって、室内の灯りがつくと再び笑顔の村上先生がそこにいた。

村上先生

どうでしたか、黒田さん。

 

どうもこうもない。いきなり連れてこられた先で寝かされた上に強い揺れに見舞われたのだ。

黒田アナ

いや、怖かったです…。

リポーターとしてあまりにも貧弱なコメントだった。
しかし、冷静になって考えてみると、“もし本当の地震だったら私は助かっていたのだろうか?”という恐怖が私を再び襲ってきた。

とにかく頭を守る

ぼう然としている私に対して村上先生が「まずは頭を守りましょう」と声をかける。
そうだ、そんな小学生のときに習った基本的なことすら、強い揺れの中で私は意識することができなかったのだ。暖かい布団に包まれ、夢の中で幸せに過ごしている中での大きな揺れという突然の恐怖に手も足も出なかった。

とにかく枕などで頭を守る。うつ伏せで体を小さくし、内臓も守る。改めて基本の動作の大切さを確認した。先生、ありがとうござました。この経験を忘れず、これからの業務や日常生活に生かしていきます!

次は…マンションの一室で

「では移動して、次は…」

え?移動?次?目の前のディレクターは一体何を言っているのだろうか?
今、暗闇の中で強い揺れという恐怖に見舞われたのに、次?

これ以上何があるというのだろう。再び疑心暗鬼に陥った私が連れてこられたのは…。

マンションの一室だった。特に変わったこともない。家具や家電もある。食器も文房具もあって、そのまますぐにここで暮らせそうな部屋だ。

気になるのは部屋の各所に設置されたカメラだけ。まさか、今度はこのマンション全体が揺れるのか!?いや、そんな施設があればさすがに私も知っているはず。頭の中でいろんな想像を巡らせている私に、相変わらず笑顔の村上先生から「黒田さんにはこれからここで寝てもらいます。ただ、寝る前にこの部屋の中で気になるものがあれば動かしていただいてかまいません」という指示。

身の回りの危険を探せ

初めて踏み入れた部屋の中で、私は考えた。
もしこの部屋にいるときに地震が起きたら、何が危険になるだろうか?先ほどの本所防災館で何もできなかった苦い経験が私を奮い立たせた。ここで結果を出さなければ私はこのアナウンサーという仕事を外されてしまうかもしれない。

まずは食器類が目に入った。ガラスのコップや陶器の皿は落ちて割れたら危ない。棚にしまっておかなければ。いや、待てよ。棚の扉が開いてそこから落ちたら結局危険であることに変わりない。だったらどうする?比較的床に近い収納スペースであれば大丈夫かもしれない。よし、これで安全だ。

ドアの近くにある背の高いダストボックスは?倒れるかもしれない。横にしておくか?いや、それではゴミ箱として機能が失われてしまう。突っ張り棒や転倒防止板がない以上、揺れによるある程度の家具の転倒はしかたがない。
問題は、倒れることでけがをしたり、二次被害を発生させたりするかどうかだ。そういう意味ではこのダストボックスは倒れてもしかたがない。ただ、ドアの近くで倒れると避難経路をふさいでしまう可能性がある。倒れてもけがをせず、なおかつ避難に支障がない場所に移動しよう。

よし、ここでいい。

事前対策は完璧

そうやって私は身の回りの危険を一つ一つ排除していった。いろいろと仕込んでいたと思うが、完璧に対策を施すことができた。これで地震が来たとしても家具などでケガをしたり避難に手間取ったりすることはない。
ごめんね、ディレクターさん。

安心して私はパジャマに着替えて床に入ることができた。今度はなかなか夢の世界は訪れてくれなかった。だって事前の準備が完璧すぎて、むしろこのあと起きることが楽しみだったんだもん。
そんな私にディレクターから指示が来る。

「黒田さん、目を閉じてください」
「黒田さん、まだ起きないで」

さあ来た!深夜の地震!

目を閉じてしばらくすると「地震です!」の声。大丈夫。
私は頭を枕で、体をうつ伏せにして小さくなって身を守る。今回はマンションなので、実際に揺れているわけではない。

そんなこともあってさらにスムーズだ。

“揺れ”が収まると「避難してください!」の指示。

待ってましたよ。暗闇の中で、私は安心感に包まれながら出口を目指す。手探りで進むが恐怖はそれほど感じない。
だって事前準備は完璧なんだもん。スキップしたいくらいの気持ちを押さえて避難する。

部屋の扉の前で、もう一度”揺れ”が来たと告げられる。

とっさにダイニングテーブルの下に隠れて頭を守り、テーブルの脚をしっかりつかみ、“揺れ”が過ぎ去るのを待つ。大丈夫。私は冷静だ。そのまま出口へと向かう。

まさか!私はけがをしていた!?

再び笑顔の村上先生。ただし、今回は私も笑顔。だって事前の対策は完璧だったし、地震後の行動も問題なかったはずだから。だって見てたでしょ?先生。さあ、私をほめてください!

しかし、部屋の明かりをつけた先生が「黒田さん、ここを見てみてください」と指した先にあったのは、ハサミやボールペンなどの文房具(の写真)だった。

まさか!?でも思い当たることがあったのだ。冷蔵庫の上にあった文房具の入ったペン立てを「これは大丈夫だから、むしろテーブルの上に置いておこう」と動かしていた。それが地震の揺れで床に落ちて凶器になっていたとは!

いや、でも落ちたとしても踏んでいない可能性もあるじゃないか。そう抗弁しようと口を開きかけた時、先生が?ブラックライトを照らす。すると私の足に光るものが。

ディレクターさん、いや、今回の企画にあたった山田アナウンサーのアイデアで、特殊な塗料が、ハサミなどの写真に塗られていた。
そして、私が目を閉じていた隙に写真が床にまかれていた。私が暗闇の中でまんまと踏んでいたというわけだ。

これでは、足が血だらけではないか!

またしても自分の想像力のなさに打ちのめされてしまった・・・。

災害時、私たちアナウンサーは「命を守る行動をとってください」と呼びかける。私も現地からリポートをしたり、スタジオから現地のみなさん向けて呼びかけをしたり、防災や減災のための放送をいくつも経験してきた。しかし、そのとき皆さんが置かれた状況は千差万別だ。

今回の体験を通して大切なのは想像力であることが身にしみて分かった。夜間、寝ているときに地震が起きたらどんなことが起こり得るのか、ふだん生活しているときに使う家具家電は揺れたらどんな危険が潜んでいるのか、地震が起きる前にできることは想像力を働かせることだ。
想像力がこもった呼びかけがみなさんの心に届くように、私はきょうも公私ともに備える。

夜間の地震 備えのポイント

改めて、夜間の地震に対する備えをまとめます。

・まず重要なのは家具固定
寝室には倒れやすいものが無いことが安全です。冷蔵庫などの家電の固定も忘れずに。
・明かりは大丈夫ですか?
停電すると、自動で足元を照らしてくれるライトもあります。
・枕元にはスリッパや室内用の履物を置いておくと安心
・ベッドから玄関までの通路に、割れる物などを置かないことも大切
・より強い揺れが発生する可能性も
無理な片づけをせず、身の安全を優先するようにしてください。

企画した山田朋生アナ
真っ黒(黒田)な深夜(信哉)でも地震は発生します。
真夜中で熟睡している時に地震が起きても、ふだん考えているようには動けません。だからこそ頭を守ることが最も大事。次に、寝ている場所の周囲にはふだんから物を置かない。そして、停電しても足元が照らせるグッズを準備することが大事だと、工学院大学の村上教授は話していました。
ふだんから防災意識の高い黒田アナでも、想定外の現象には慌てました。いま一度、みなさんも想像だけでなく、ぜひ“備え”をしてください。

  • 黒田信哉

    アナウンサー

    黒田信哉

  • 山田朋生

    アナウンサー

    山田朋生

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