<デジタル発>JT将棋で道内初対局、藤井五冠と羽生九段の激戦振り返る 「AI」「若手台頭」から「山線」「どうでしょう」まで

 藤井聡太五冠(20)=竜王、王位、叡王、王将、棋聖=と羽生善治九段(52)との道内初対局となった「将棋日本シリーズJTプロ公式戦北海道大会」(日本将棋連盟、北海道新聞社主催)の2回戦第4局が9月23日、札幌市白石区の札幌コンベンションセンターで指されました。「現役最強」と「レジェンド」の道内初対局として多くの報道陣も集まった一局は、先手番の藤井五冠が67手で羽生九段に勝ち、準決勝へと駒を進めました。この対局を振り返り、笑顔も多く見られた前日のインタビューを一問一答や動画で紹介します。(文化部デジタル委員 大原智也)

対局する藤井聡太五冠(左)と羽生善治九段 金田翔撮影

手に汗握る早指し


 JTプロ公式戦は今年で43回目となる早指しの公開対局。持ち時間は各10分。それを使い切ると1手30秒未満で指さなければなりません。ただ、1分単位で合計5回の考慮時間があります。そうだとしても、王位戦の挑戦者決定リーグの各4時間、2日制の王位戦7番勝負は各8時間。それらと比べるといかに持ち時間が少ないかが分かります。棋士にとっては大変ですが、見る側にとってはテンポよく指し手が進み、逆転劇も起こりやすく、手に汗握る展開が目の前で繰り広げられるスリリングな対局となっています。
 タイトル保持者らトップ棋士12人が参加し、全国11会場で開催しています。同時に小学生以下が対象のテーブルマークこども大会も行われていますが、新型コロナウイルス禍もあり、北海道では3年ぶりの公開対局となりました。
 藤井五冠は今期、王位戦3連覇を達成。タイトル通算獲得数を10期として羽生九段の持っていた最年少記録を更新するなど規格外の活躍ぶり。一方の羽生九段は、昨年度の勝率が3割6分8厘と低迷。順位戦も29期(名人在位9期含む)続いたA級から陥落するなど苦戦していたものの、本年度は公式戦通算1500勝を挙げ、藤井五冠との対局前まで勝率7割5分(12勝4敗)と復調の気配を見せています。
 両対局者は道内7市の名産品をPRする前日の開催記念イベント「どさんこ名産品PR道場」にも、解説の屋敷伸之九段(札幌出身)、女流棋士2人と参加しました。各市の担当者は3分間の持ち時間で「ぜひ将棋めしにどうですか」と特長を熱っぽくPR。藤井五冠は苫小牧市の「とまこまいカレーラーメン」、羽生九段は旭川市の「塩ホルモン」を食べてみたいと笑顔で語りました。
 その後、翌日の対局へ向けて藤井五冠は「羽生九段と大きな舞台で指せるのは楽しみ。持ち時間が短い対局になるので、対局前からしっかり集中して、決断よく指せればと思っています」、羽生九段は「リズムとテンポを大切に指していけたら。相手が藤井さんということで、張り切ってみなさんに楽しんでいただけるように良い将棋を指したい」とそれぞれ熱戦を誓いました。その中で「藤井五冠は頭の中に将棋盤がなくて(7六歩、8四歩といった)符号で読むということが話題になった」という司会者からの問いに対し、羽生九段が「私は盤で読んでいるので分からない」と困惑しながら答える場面もありました。

前日の記念イベントで道内の名産品をPRする藤井聡太五冠(右から2人目)と羽生善治九段(左から3人目) 舘山国敏撮影

 どさんこ名産品PR道場(https://domingo.ne.jp/article/18207

観戦の倍率18倍

 対局当日。「ファンが今一番見たいカード」と何度も屋敷九段が強調した一局は、観戦できる定員約200人に対して応募は3600人超と、これまでの北海道対局では例のないような人気ぶり。当日は抽選で当選した人や、こども大会の参加者や保護者らを含め、約440人が貴重な一戦を見守りました。道外からのファンも多く、観客席にはアイドルのライブのようなデコレーションされた藤井五冠のうちわを持った女性の姿も。UHBなど道内各社のテレビカメラが集結し、両者の一挙手一投足を追いました。
 2人が2018年の朝日杯本戦トーナメント準決勝で初対局してからの通算成績は、藤井五冠の5勝1敗です。会場内での抽選で選ばれた観客の振り駒によって、先手が藤井五冠、後手は羽生九段と決定。過去6局はすべて別の戦型でしたが、羽生九段が2020年の王将戦挑戦者決定リーグ戦において後手で初勝利を挙げた、横歩取りに誘導する形となりました。

藤井聡太五冠 金田翔撮影

羽生善治九段 金田翔撮影

封じ手後 一気に激化


 一気に戦いが激化したのが、JT将棋恒例の予想クイズで藤井五冠の37手目を封じ手とし、☗6八銀と指した後の☖4四角(38手目)から。飛車を取り合って、羽生九段が8九飛(42手目)と敵陣に打ち下ろすなど、飛車角が飛び交う展開となりましたが、☗4五角(55手目)が決め手となり、冷静な手が光った藤井五冠が67手で勝利。11月6日に名古屋市で稲葉陽八段と対戦する準決勝第2局に駒を進めました。

大盤解説を行う屋敷伸之九段(右端)と、戦いを見守る観客。37手目の封じ手の局面 金田翔撮影

 対局後、勝った藤井五冠は「短い持ち時間で判断のつかない局面が多かった。☗8二飛(47手目)から☗9五角(49手目)と攻め合いでうまくいってるかどうか分からなかったんですが、結果的には踏み込んで勝ちに結びつけることができました」と振り返り、敗北した羽生九段は「どこかで手を考えるべきでした。もともと悪かったのかもしれませんけど」と反省。その後はファンの前でにこやかに感想戦を行いました。

先手の藤井五冠が55手目に4五角と打った局面

 屋敷九段は対局後、羽生九段が横歩取りの戦型に誘導したことに対して「最近、後手番になった時によく指しているので、おそらくテーマの一つなんでしょう」と語り、「(再開後の)4四角がリスクを背負って戦いにいった一手だったのでしょうが、感想戦によるとどこかに誤算があったようですね。藤井五冠は☗8二飛から☗4五角までの構想が素晴らしく、見事な組み立てでした」と解説。「手数は短かったが久々の北海道大会にふさわしい対局」と振り返りました。

対局を振り返る藤井聡太五冠(写真左)と羽生善治九段(同右) 金田翔撮影

 表彰式や抽選会が終了した後、勝者の藤井五冠がテーブルマークの公式キャラクターで冷凍さぬきうどんの「コシノツヨシ」とともに来場者を見送り、ファンも満足そうに会場を後に。3年ぶりの公開対局、こども大会は大盛況のうちに幕を閉じました。

来場者をマスコット「コシノツヨシ」とともに見送る藤井聡太五冠 金田翔撮影


 対局前日に聞いたそれぞれのインタビューも紹介します。

▽藤井聡太五冠インタビュー

20歳 大きな変化なし

 ――最近、ツイッターで藤井五冠の着物を包む風呂敷がサケとクマの柄だったと話題になっていました。あれはだれかからのプレゼントですか。
 「呉服店(東京・白瀧呉服店)の方にいろいろと見せていただいた中で、『こちら側』で選んでいるものだと思います」

インタビューで笑う藤井聡太五冠(動画より抜粋)

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