フィリピン、ノーベル賞受賞者のニュースサイトに閉鎖命令 数少ない反体制派

Maria Ressa (C), the CEO and editor of online portal Rappler, speaks during a protest on press freedom

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画像説明, ラップラーのマリア・レッサ編集長

フィリピン当局は29日、政権批判を重ねてきたニュースサイト「ラップラー」の事業免許を再び取り消したと発表した。

ラップラーは、フィリピン国内でロドリゴ・ドゥテルテ政権を公然を批判してきた数少ない報道機関。共同創設者で編集長のマリア・レッサ氏は昨年、表現の自由のために闘ったとしてノーベル平和賞を受賞している

レッサ氏は記者団に対し、「我々は通常どおりに仕事を続け、ラップラーを運営する。法的手続きを踏んで、自分たちの権利を守るために立ち上がり続ける。一線を守り続ける」と語った。

また、今回の命令は非常に変則的な手続きによるものだとし、ラップラーはこれ以上、法の支配をあてにできないと語った。

同国では30日、ドゥテルテ大統領が退任し、ドゥテルテ氏の路線を引き継ぐとみられているフェルディナンド・マルコス・ジュニア氏が大統領に就任。権利活動家らは、表現の自由が引き続き抑圧されるのではないかと懸念している。

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フィリピンの証券取引委員会は29日の声明で、上訴の結果、裁判所がラップラーの資金調達モデルを違憲と結論付けたため、事業免許の取り消しも支持されたと説明した。

当局は2018年にラップラーの事業免許を没収。外国資本によるメディア所有を禁じた法律に違反し、事業資格がないとした。

これに対してラップラーは、「裁判所による再検討を請求する間、運営を続ける」としていた。

ラップラーは2015年、米オークションサイト「イーベイ」の創業者、ピエール・オミダイア氏が抱える投資会社から資金を調達した。だが、国外組織に所有されているわけではないと主張している。資金調達の3年後には、同社が支配権を持っていないと証明するため、この資金をフィリピン人従業員らに寄付した。

「脅迫であり、政治的戦術」

レッサ氏は29日、証取委の決定は、当局が6年にわたって続けてきた、ラップラーの厳しい批判報道に対する最新の攻撃だと述べた。

「我々は嫌がらせを受けてきた。これは脅迫であり、政治的戦術だ。我々は屈しない」

人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは、証取委は「どんな手を使ってでもノーベル賞受賞者のレッサ氏をだまらせ、ラップラーを閉鎖させよう」とし、「誤った」行動を起こしていると指摘した。

ラップラーは、ドゥテルテ政権下で多くの死者を出してきた麻薬撲滅戦争をたびたび取り上げてきた。また、女性差別や人権侵害、汚職などの問題も批判的に扱ってきた。

Rappler's Manila office

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画像説明, ラップラーのマニラ本社

2012年にラップラーを共同創設したレッサ氏は、フィリピン国内で少なくとも7件の刑事・民事訴訟に直面しているが、これらは政治的なものだと述べている。2021年にはサイバー名誉毀損罪で有罪判決を言い渡されたが、現在控訴中。この裁判は、同国の報道の自由の行方を示すものとして注目されている。

レッサ氏のノーベル平和賞は、ロシアのリベラル紙「ノーヴァヤ・ガゼータ」編集長のドミトリー・ムラトフ氏との共同受賞だった。レッサ氏は、「母国フィリピンにおける権力乱用、暴力の行使、強権主義の拡大を、明るみに出すため」表現の自由を駆使したと評価された。

マルコス新大統領への懸念

ラップラーの事業免許取り消し命令は、マルコス新政権への懸念が高まる中で発表された。

30日に大統領に就任したマルコス・ジュニア氏は、1965~1986年にフィリピンで独裁体制を敷いていたフェルディナンド・マルコス元大統領の息子。マルコス元大統領は戒厳令を敷き、多くのジャーナリストや人権活動家、反体制派を迫害した。

マルコス・ジュニア新大統領は、父親の政権を成長と繁栄の「黄金時代」だったとしている。新政権の副大統領には、ドゥテルテ氏の娘のサラ・ドゥテルテ氏が就任した。

活動家らは、すでにメディア抑制や表現の自由について懸念の声を上げている。

フィリピン当局は今月、インターネット・プロバイダー各社に対し、左派活動家を支持するウェブサイトを遮断するよう勧告したばかり。

同国では、政府に批判的なジャーナリストも、定期的に迫害を受けている。最近では、ジャーナリストや反体制派への嫌がらせや脅迫を目的とした「荒らし団体」の内部告発が相次いだ。

国境なき記者団(RSF)は今年、世界報道自由度ランキングでフィリピンを180カ国中147位とし、前年から9つ順位を下げた。