ゼレンスキー大統領「まずは領土を侵攻以前の状態に」 NHK単独

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアによる軍事侵攻が始まってから3か月となった24日、日本メディアとしてはじめてNHKの単独インタビューに応じました。

この中でゼレンスキー大統領は「領土を2月24日以前の状態に戻したうえで、ロシアとの交渉のテーブルにつく」と述べ、ロシア軍が侵攻する以前の状態にまで領土を奪還しないかぎり、停戦交渉は難しいという考えを示しました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、NHKのインタビューに応じました。

インタビューは、首都キーウにある大統領府でおよそ45分間行われ、ゼレンスキー大統領が日本メディアのインタビューに応じるのは、ことし2月24日のロシアによる軍事侵攻以降はじめてです。

何を語った?

この中で、ゼレンスキー大統領は、3か月前にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始したことについて「ウクライナは、3日もすれば、ロシアに占領されてしまうと考えている国もあったが、3日がすぎ、3週間がすぎ、もう3か月が経過した。私は、ロシアの試みが成功するとは考えていなかった」と述べ、ウクライナ軍は、欧米の軍事支援を受けてロシア軍と戦うことができているとして国を守る戦いを続ける決意を示しました。

ロシア軍の劣勢も伝えられるなか、ウクライナ軍の今後の戦略については「反撃の準備ができるのは、長距離ミサイルなど必要とする兵器が届いたときだ」と述べ、欧米の軍事支援によって態勢が整ったのちに反撃を強める姿勢を強調しました。

そのうえでゼレンスキー大統領は「すべてのウクライナ人にとって勝利とは、領土を取り戻すことだ。ドンバス地域とクリミア半島の両方で、われわれのすべての領土を取り戻さなければならないのは確かだ。しかし、それは犠牲を伴うだろう。まずは、2月24日以前の状態に戻したいと考えている。それから交渉のテーブルにつくつもりだ」と述べ、ロシア軍が侵攻する以前の状態にまで領土を奪還しないかぎり、停戦交渉は難しいという考えを示しました。
また、ロシア軍が艦船を派遣するなどして黒海を封鎖しているとして「2200万トンの穀物がロシアによって輸出を妨げられていることは、アジア、ヨーロッパ、アフリカにとっても重大な意味を持つ」と述べ、対艦ミサイルの供与などさらなる軍事支援を求めました。

さらに「世界がウクライナを中心にまとまったおかげでロシアに対する制裁も効果が出始めている」とロシアへのさらなる制裁も訴えました。

また、ゼレンスキー大統領は「他国の領土侵犯、若者や市民の拷問、大量虐殺、重要なインフラや原発の破壊など、ロシアがウクライナに対してやっていることがヨーロッパで許されるのであれば、別の大陸でもやっていいことになる」と述べ、軍事侵攻を強行したロシアの責任を厳しく追及することが不可欠だと強調しました。

そのうえでロシアと関係が深い中国の動きについて「中国がロシアと結束することは望ましくない。このことは日本もよく理解していると思う」と述べました。

そして「日本がウクライナを明確、率直、実質的、かつ全面的に支持してくれたことはわれわれにとって重要だった」と日本の支援に謝意を示した上で、日米豪印4か国の枠組み、クアッドに触れ、「ここで結束することは他の国にシグナルを送るためにも重要だ」と強調し、クアッドの首脳会合を開催した日本の役割にも期待を示しました。

インタビュー実現の舞台裏

ウクライナのゼレンスキー大統領がNHKのインタビューに応じるという連絡は、大統領府の関係者から2日前に入ったものの、場所や開始時間などの詳細は、安全上の理由からか直前まで明らかにされませんでした。

大統領府の庁舎に入る際には、スマートフォンなど電子機器の持ち込みが禁止されたほか、持ち物検査やボディーチェックも入念に行われるなど、厳重な警戒態勢がとられていました。

庁舎の中でも窓の周りや階段の近くなどに土のうが積まれ、銃を持った兵士が至る所で警戒を続けていました。

「娘が日本を気に入っている」と笑顔で雑談

インタビューは、24日の日本時間午後6時半からおよそ45分間行われ、ゼレンスキー大統領は、庁舎内の一室に軍用のグリーンのTシャツに上着を羽織った姿で護衛の兵士とともに入って来ました。

取材クルーが、照明や音声マイクの調整を行っている間も時折、笑顔を見せながら雑談に応じ、この中で、ゼレンスキー大統領は、娘が日本を気に入っていることや、キーウ市内の店やレストランが次第に営業を再開する中でも外食をすることはできないといった今の暮らしぶりについて話していました。

冗談も交えながら身ぶり手ぶりで話す姿からは、3か月に及ぶロシアとの戦いでも疲れきった様子は感じられませんでした。

みずから英語で説明する場面も

一方、取材クルーは、インタビューの準備中、大統領が座るいすから出入り口までの間にはライトなどの機材を置いたり、マイクのケーブルをはわせたりしないよう指示されました。

緊急事態が起きたときにはすぐに部屋の外に出られるようするためとみられます。

インタビューでゼレンスキー大統領は、英語の通訳を同席させてウクライナ語で受け答えしていましたが、誤解が生じかねない部分があるとみずから英語で説明し直すこともありました。