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カイア・ガーバーの人生を変えた5冊──カミュにカーヴァー、デュラスなど、「必要なときに、必要な本がやってくる」。

母であるシンディ・クロフォードと同じく、読者が趣味というカイア・ガーバー。本好きが高じてブッククラブを立ち上げたカイアに、自身がもっとも影響を受けたという5冊を紹介してもらった。

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Photo: Theo Wargo / Getty Images

ファッションウィークのストリートスナップを見ていると、カイア・ガーバーが常に本を携えているのがわかる。ジェフリー・ユージェニデスの『ミドルセックス』のような分厚い文学作品から、リチャード・パワーズのブッカー賞受賞作『オーバーストーリー』のような没入必至の近作までさまざまだ。

本が好きでブッククラブを立ち上げる。

2022年2月のミラノ・ファッションウィークでのカイア。手にはリチャード・パワーズの『オーバーストーリー』が。Photo: Getty Images

インスタグラムでカイアをフォローしている人なら、大して驚くことはないだろう。2020年3月、彼女はSNS上でブッククラブを立ち上げた。その第1回目ゲストには、俳優のデイジー・エドガー=ジョーンズとポール・メスカルを迎え、サリー・ルーニーの『Normal People(未邦訳)』について話し合った。さらに最近では、ジェーン・フォンダレナ・ダナムエミリー・ラタコウスキーらがゲストとして参加している。

「ブッククラブをやってみたいって、ずっと思っていたんです。これまでもたくさん本を読んで、友達と読んだ本について語り合ったりしてきましたが、正式なブッククラブという形にはしていませんでした。だから、パンデミックが起きて──正直に言えば、最初は退屈だったからなのですが──インスタグラムでは、ちょっと切り出しにくいようなトピックについて話せる空間を作りたいと思ったんです」

そう語るカイアは、幼い頃から本の虫。だから彼女がブッククラブを立ち上げるのは自然な流れだった。母親で元祖スーパーモデルのシンディ・クロフォードは、幼いカイアに毎晩ベッドで読み聞かせをしてくれたという。学校に通い出した6歳か7歳の頃には、子ども向けの本を楽しむ同級生を尻目に、すでにジョン・スタインベックの『ハツカネズミと人間』を読んでいたという。「母が本を回してくるので、私は幼い頃から、すごく重く重要なテーマの本を読んでいたんです」とガーバーは笑う。

「小さい頃から、少なくとも課題図書以外は、楽しむために本を読んでいました 」

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母・シンディは「誰よりも本を読む」

16歳でモデルの仕事が軌道に乗りはじめると、ガーバーは高校を早く卒業してニューヨークへ渡った。読書熱が最高潮に達したのはその時期だ。ショーのバックステージやファッション撮影の現場で長い待ち時間があったのもその理由の一つだが、大学進学を目指していたことも大きい。

「かなり若くして仕事をはじめたので、大学に行けなかったらどうしようという不安は常にありました。大学進学が人生の目標だったからです。自分が求めているような教育は受けられないような気がしていたので、自分で学習するために、本をたくさん読むようになりました。ニューヨークに引っ越すと、大学に通っていた友人がノリータにある書店のマクナリー・ジャクソン・ブックスに連れて行ってくれて、『ここにある作家は読んだほうがいい』『これは重要な本だよ』などと教えてくれたんです。そんなふうに、彼と本についてディスカッションすることで、本の文脈も知ることができました」

今でもガーバーは、人が推薦してくれる本を読書の参考にしているという。と同時に、世界のさまざまな書店を訪れては掘り出し物を見つけるセレンディピティのような瞬間も楽しんでいる。

「少し意外な本に出合うと、いつもすごく嬉しくなります」

今でも母親とは、本の情報を交換し合っているというカイア。数年前の休日には、二人で並んでハニヤ・ヤナギハラの『A Little Life(未邦訳)』を読み、過酷なテーマについてともに議論したという。

「面白いことに、私が読む本は何十年も前に書かれたものが多くて、『ママ、この本は素晴らしいよ!』と話すと、母はいつも『ああそれね、読んだことある』って言うんです。だから、母がまだ読んだことのない本を探して薦めるのは、私にとっての挑戦です。母とは本の貸し借りもします。母は私が知る誰よりも読書家で、おそらく私よりも多く読んでいると思います。だから、彼女は素晴らしい情報源でもあるんです」

「本について話せるなら、どんな機会も逃さない」

2019年7月、パリ・ファッションウィーク中のガイア・ガーバー。Photo: Getty Images

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 実際、カイアの読書量は凄まじい。オススメの本のタイトルを送ってほしいとお願いすると、一気に15冊も挙げてくれた。「10冊でいいって言われたけど、選べなかった!」と、ガーバーは楽しそうな笑い声を立てた。

「そこからさらに5冊に絞るのは、自分の子どものなかからお気に入りの子を選ぶようなもの」

そう語る彼女が泣く泣くリストから外したのは、村上春樹、ジェイムズ・ボールドウィン、メアリー・オリバー、マヤ・アンジェロウ、ドナ・タートの作品。カイアは確かに、非の打ち所のない選書のセンスの持ち主だ。

「本について話す機会があるなら、どこへでも行きます。100冊でも挙げられたけれど、本というのはある意味で映画と似ていて、人生のある時期に触れるからこそ大きな影響を受ける作品ってありますよね。同じ本を1年後に読んでも、そのときはまったく違う状況にいるので同じようには感じられない。まさに、一番必要としているときに、必要な本がやってくるという感じです」

​​ここからは、カイア・ガーバーの人生を変えた5冊の本と、彼女がオススメする理由を紹介しよう。

マルグリット・デュラス『愛人(ラマン)』

愛人 ラマン (河出文庫)
¥825
Amazon

「 『愛人(ラマン)』は、若い女性と年上の男性が恋に落ちる話ですが、若い女性の視点で書かれているところが良かったです。というのも、どうしてもロリータ(ウラジミール・ナボコフの『ロリータ』は、同じテーマを男性の視点で書いたもの。ヒロインの名前がロリータ)たちを想像してしまいますからね。マルグリット・デュラスの作品はどれも本当に素晴らしいので、ぜひ読んでみてください。私は『Me & Other Writing(未邦訳)』というエッセイ集をはじめに読んだのですが、独特な文章の組み立てられ方を経験すると、彼女の書いたものは全部読まなければと思いました。『愛人』は一日で読んだと思います。詩的で、悲しくて、これでもかというほど正直で、何よりも、これまで何度も読み、見てきた物語に違った解釈を与えてくれるところが好きでした」

アルベール・カミュ『異邦人』

異邦人 (新潮文庫)
¥605
Amazon

「初めて読んだ哲学書は『異邦人』だったと思います。哲学を読むということはどういうことなのか、自分の頭の中にはあったのですが、カミュの書き方はとても淡々としていて、核心をついていて、とてもよかったです。哲学的な大きな問いを投げかけられていることに気づかずにすらすらと読んでしまうほど、ストレートな書き方をしています。カミュの巧みな手法によって、知らぬ間にそうした壮大な問いに迷い込んでしまう。この本は小説として素晴らしいだけでなく、哲学の入門書としても完璧な本だと思います」

ジョーン・ディディオン『悲しみにある者』 

悲しみにある者
¥4,599
Amazon

「ジョーン・ディディオンは、おそらく私の人生にもっとも影響を与えた作家であり、彼女の作品がとても好きです。『悲しみにある者』を読むまでは、悲哀をこんなふうにとらえた作品を読んだことがなかったように思います。悲しみと向き合う経験は幾度かありますが、そういうときには、「前に進んでいいんだよ」と言って鼓舞してくれるような記事や本を読みます。悲しみとは、誰の身にもふりかかるもので、前進を促すものだということを教えてくれるから。それにしても、ディディオンは、悲しみのとても長いプロセスを本当に的確に捉えていると思います。そして、悲しみがその後の人生に与える影響や、人があまり話したがらない感情──例えば怒り──をとても誠実に表現しています。大半の人が言葉にできないようなことを文字にできる彼女に、拍手を送りたいです」

パティ・スミス『ジャスト・キッズ』

ジャスト・キッズ
¥3,576
Amazon

「ニューヨークに引っ越す直前に『ジャスト・キッズ』を読みましたが、多くの人が私と同じような感想をこの本に持っているのではないでしょうか。若いときに読むと、その後の人生すべてを変えたい、自由に生きて、なりたい自分になりたい、と思える本。特に私はスミスとはまったく異なる環境で育ったので、とても刺激的でした。それまでは理解していなかった世界に誘われたような気がして、芸術を作るという行為は実現可能なんだ、いつでも何かを創造できるんだ、と気づかせてくれました。この作品は、子どもの頃に聞かされてきたラブストーリーとは全く異なるエンディングを迎えるラブストーリーで、人生にはさまざまな人間関係があり、さまざまな愛し方があるのだと気づかせてくれました」

レイモンド・カーヴァー『愛について語るときに我々の語ること』

愛について語るときに我々の語ること
¥3,080
Amazon

「この本を読んだのは1年前くらいで、それまでレイモンド・カーヴァーの作品を読んだことはありませんでした。フランスやロシアの作家の作品に惹かれることが多いのですが、カーヴァーの平然としたアメリカらしさに惹かれました。アメリカの文化や社会を実に見事にとらえていると思います。この本には、必ずしも起承転結があるわけではない人生の小さな断片がすべて描かれていますが、そうしたちょっとした瞬間にどれだけのことが起こり得るかを実感させられます。巧みに形式を使っている本は大好きですし、カーヴァーは天才だと思います」

Text: Liam Hess Translation: Miwako Ozawa  From: VOGUE.COM