世界初のブタの心臓移植受けた男性、過去に刺傷事件で有罪

Surgeon Bartley P. Griffith with David Bennett in January

画像提供, University of Maryland School of Medicine

画像説明, 移植手術を担当したバートリー・P・グリフィス外科医と、移植を受けたデイヴィッド・ベネットさん(今月初め撮影)

世界で初めて遺伝子を改変したブタの心臓移植手術を受けたアメリカの男性が、1988年に男性を繰り返し刺した罪で有罪になっていたことが明らかになった。傷害事件の被害者は、半身不随となった。

米メリーランド大学医療センターは10日、デイヴィッド・ベネットさん(57)に7時間にわたる実験的な移植手術を実施したと発表した。

このニュースを知ったメリーランド州在住のレスリー・シューメイカー・ダウニーさんはBBCに対して、ベネットさんは1988年に自分の弟エドワード・シューメイカーさんを7回にわたり刺した罪で有罪になった人物だと話した。

ダウニーさんによると、背中を繰り返し刺された弟はその影響で車いすで生活するようになり、2005年に脳卒中になった後、2007年に40歳で亡くなった。

ダウニーさんは、ベネットさんに心臓移植を受ける資格があるとは思えないと話した。

一方、メリーランド大医療センターは米紙ニューヨーク・タイムズに対して、患者に犯罪歴があったとしても、治療を拒否する理由には決してならないとコメント。「すべての病院や医療機関には、自分たちのもとを訪れるすべての患者に対し、医療上の必要性に応じて、救命措置を提供する、厳粛な義務がある」と述べた。

「医療行為にそれ以外の基準をあてはめたりしたら、危険な前例となり、医師や医療・介護従事者が担当患者に抱く義務の根拠となる、倫理的・道義的な価値観に背くことになる」と、同医療センターは説明している。

ダウニーさんによると、弟が攻撃されたのは1988年4月。ベネットさんの妻が、当時22歳だったシューメイカーさんの膝にのって座ったことがきっかけだった。ベネットさんは嫉妬心から激怒した様子で、シューメイカーさんの背中を刃物で繰り返し刺したという。

ベネットさんは暴行と武器を隠し持っていた罪で有罪となり、実刑10年の判決を受けた。

ダウニーさんは、ベネットさんがブタの心臓移植を受けるのだと誰からも知らされず、娘からのメッセージで初めて知ることになったのだという。

「2番目の娘が『ママ、この人、エドおじさんを刺した男だよ』とインスタントメッセージを送ってきた。それでニュース記事を読んで、あの男が心臓移植を受けたのだと知って、頭にきてしまった」と、ダウニーさんは話した。

surgeons performing the surgery

画像提供, University of Maryland School of Medicine

画像説明, 移植手術はメリーランド大学で行われた

ベネットさんは手術の6週間前に末期症状の心臓疾患と診断されて以来、生命維持装置につながれた状態で寝たきりだった。7時間の移植手術を経て、医師団はベネットさんの術後の容体を注視している。今月10日には自発呼吸ができるようになっていた。

移植手術はベネットさんの命を救うための最後の手段だったという。ただし、今後の見通しは不透明。

ダウニーさんは、この手術が広く報道されたことで、心がかき乱されたと話す。

「ベネットを記事で取り上げて、まるで英雄でパイオニアみたいに描いているけれど、彼はそんな人間じゃない」、「称賛されるべきは執刀した医師たちで、ベネットではない」

世界中で医師は、患者の経歴や犯罪歴にかかわらず、治療を必要とする患者を平等に治療すると誓いをたてる。

アメリカで移植待機者リストを運営する米臓器調達移植ネットワーク(OPTN)は、「犯罪で有罪となった者を、臓器移植を含む医療提供から完全排除するような懲罰的な態度は、倫理的に不当」だとしている。