岸田文雄首相所信表明演説全文

臨時国会の衆院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=6日午後、衆院本会議場(矢島康弘撮影)
臨時国会の衆院本会議で所信表明演説を行う岸田文雄首相=6日午後、衆院本会議場(矢島康弘撮影)

田文雄首相の所信表明演説全文は次の通り。

一 はじめに

先般の総選挙の結果を受け、第101代内閣総理大臣として、引き続き、この国の舵(かじ)取りという重責を担うことになりました。

私は、国民の皆さんから頂いた信任を背に、新型コロナを克服し、新しい時代を切り拓(ひら)くという極めて難しい課題に、同僚議員各位、そして、国民の皆さんとともに挑んでいきます。

若者も、高齢者も、障害のある方も、男性も、女性も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会を目指します。

信頼と共感を得ることができる、丁寧で寛容な政治を進め、この大いなる挑戦の先頭に立つ覚悟です。

われわれみんなで協力し、この国難を乗り越え、その先に、新しい時代を創り上げていこうではありませんか。

二 コロナ克服・新時代開拓のための経済対策

「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす。」

大きく物事を進めて行く際には、順番が大切です。

スピード感を持って進めてきたワクチン接種の効果もあり、足元では、わが国の新型コロナの感染状況は落ち着いています。

しかし、ワクチン接種が進んでいても、欧州では、ここに来て、過去最多の感染者数を記録する国も出ています。新たに報告されたオミクロン株が、多くの国でも確認されるなどのリスクも生じています。

大事なのは、最悪の事態を想定することです。

オミクロン株のリスクに対応するため、外国人の入国について、全世界を対象に停止することを決断いたしました。

まだ、状況が十分に分からないのに慎重すぎるのではないか、とのご批判は、私が全て負う覚悟です。国民からの負託は、こうした覚悟で、仕事を進めていくために頂いたと理解し、全力で取り組みます。

新型コロナについて、細心かつ慎重に対応するとの立場を堅持します。感染状況が落ち着いていますが、コロナ予備費を含めて13兆円規模の財政資金を投入し、感染拡大に備えることとしました。

「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る。」

米国第35代大統領、ジョン・F・ケネディの言葉です。

同時に、一日も早く、日本経済を回復軌道に持っていかなければなりません。新型コロナにより、厳しい状況にある人々、事業者に対して、17兆円規模となる手厚い支援を行います。

一方、デジタルや気候変動問題への対応という切り口で、世界は大きく変化しています。20兆円規模の財政資金を投入し、わが国が新たな時代を切り拓いていくための、大きな一歩を踏み出します。

こうした明確な考えに基づき、今回の総額55.7兆円の大規模な対策を、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」と命名しました。

危機に対する必要な財政支出は躊躇(ちゅうちょ)なく行い、万全を期します。経済あっての財政であり、順番を間違えてはなりません。

経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます。

三 新型コロナ対応

先般、新型コロナ対応の全体像をお示しいたしました。

具体的な行動によって、国民の皆さんの安心を取り戻し、何としても、国民の命と健康を守り抜く決意です。

第1に、次の感染拡大を見据えた医療提供体制を確保します。感染力が今夏の2倍となり、第5波を上回る感染状況となっても、病床の徹底的な確保と個々の病院の病床利用の「見える化」、そして関連制度をフル活用した連携強化により、斉整(せいせい)と対応できるようにします。

公立公的病院に、法律に基づく要請を行い、新型コロナの専用病床化を進める。個別の病院名を明らかにして新たな病床の確保を行う。都道府県と医療機関が、書面で、緊急時に確実に入院を受け入れることを明確化する。

これらの取り組みにより、既に、この夏に比べて3割、1万人増の約3万7千人が入院できる体制を確保しました。

第2に、新型コロナの脅威を社会全体として、可能な限り引き下げます。ワクチン、検査、飲める治療薬の普及により、予防、発見から早期治療までの流れを抜本強化します。

ワクチンについては、医療従事者の方から、3回目の接種を始めました。2回目の接種から8カ月以降の方々に順次、接種することを原則としておりましたが、感染防止に万全を期す観点から、既存ワクチンのオミクロン株への効果等を一定程度見極めた上で、優先度に応じ、追加承認されるモデルナを活用して、8カ月を待たずに、できる限り前倒しします。

無料で受けられる検査を抜本的に拡充します。3200億円を計上し、健康上の理由でワクチン接種を受けられない方や、感染拡大時については、無症状の方でも、無料で検査を受けられるようにします。

今後の切り札となる、飲める治療薬は、年内の薬事承認を目指します。既に160万回分を確保しました。薬事承認が行われ次第、速やかに医療現場にお届けします。

第3に、息の長い、感染症危機への対応体制を整えます。

今回の感染症危機では、海外産ワクチンを活用しましたが、変異株も含め、次の感染症危機に備えるため、国産ワクチン、治療薬の開発・デュアルユースでの製造に、5千億円規模の投資を行います。

国が主導して感染症危機に対応できるよう、国と地方の連携強化を行うとともに、緊急時に、安全性の確認を前提としつつ、迅速な薬事承認ができるよう、法整備を行います。

さらに、これまでの新型コロナ対応を徹底的に検証します。その上で、来年の6月までに、感染症危機などの健康危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的体制強化策を取りまとめます。

四 経済回復に向けた支援

通常に近い経済社会活動を取り戻すには、もう少し時間がかかります。

それまでの間は、断固たる決意で、新型コロナでお困りの方の生活を支え、事業の継続と雇用を守り抜きます。

かねてより申し上げているとおり、経済的にお困りの世帯、厳しい経済状況にある学生、子育て世帯に対し、給付金による支援を行います。特に生活に困窮されている方には、生活困窮者自立支援金の拡充など、さまざまなメニューを用意します。総額7兆円規模を投入します。

事業者向けには、2.8兆円規模の給付金により、事業復活に向けた取り組みを強力に後押しします。

ワクチン・検査パッケージを活用した行動制限緩和の方針に基づき、通常に近い経済社会活動の再開に取り組みます。

安全・安心な形で、新たなGo To事業などの消費喚起策を行う準備も進めます。

しかしながら、経済社会活動の再開に当たっては、決して、楽観的になることなく、慎重に状況を見極めなければなりません。感染が再拡大した場合には、国民の理解を丁寧に求めつつ、行動制限の強化を含め、機動的に対応します。

五 未来社会を切り拓く「新しい資本主義」

新型コロナによる危機を乗り越えた先に私が目指すのは、「新しい資本主義」の実現です。

人類が生み出した資本主義は、効率性や、起業家精神、活力を生み、長きにわたり、世界経済の繁栄をもたらしてきました。

しかし、1980年代以降、世界の主流となった、市場や競争に任せれば、全てがうまくいく、という新自由主義的な考えは、世界経済の成長の原動力となった半面、多くの弊害も生みました。

市場に依存し過ぎたことで、格差や貧困が拡大し、また、自然に負荷をかけ過ぎたことで、気候変動問題が深刻化しました。

これ以上問題を放置することはできない。米国の「ビルド・バック・ベター」、欧州の「次世代EU」など、世界では、弊害を是正しながら、さらに力強く成長するための、新たな資本主義モデルの模索が始まっています。

わが国としても、成長も、分配も実現する「新しい資本主義」を具体化します。世界、そして時代が直面する挑戦を先導していきます。

日本ならできる、いや、日本だからできる。

われわれには、協働・絆を重んじる伝統や文化、三方良しの精神などを、古来より育んできた歴史があります。だからこそ、人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義を作れるのです。

皆さん。明治維新、戦後高度成長、日本は幾多の奇跡を実現してきました。「新しい資本主義」という、数世代に1度の歴史的挑戦においても、日本の底力を示そうではありませんか。

六 新しい資本主義の下での成長

まずは、成長戦略です。官と民が共に役割を果たし、協働して、成長のための大胆な投資を行います。

① イノベーション

科学技術によるイノベーションを推進し、経済の付加価値創出力を引き上げます。

上場を果たしたスタートアップが、さらに成長していけるよう、上場ルールを見直すなど、スタートアップ・エコシステムを大胆に強化します。

大学改革にも積極的に取り組みます。

10兆円の大学ファンドを年度内に創設するとともに、イノベーションの担い手たる研究者が、大学運営ではなく、研究に専念できるよう、研究と経営の分離を進めます。

成長を牽引(けんいん)する、科学技術分野の人材育成を強化するため、大学の学部や大学院の再編に取り組みます。さらに、地域の中小企業と連携した大学発ベンチャーの創出にも取り組みます。

② デジタル田園都市国家構想

新しい資本主義の主役は地方です。

4.4兆円を投入し、地域が抱える、人口減少、高齢化、産業空洞化などの課題を、デジタルの力を活用することによって解決していきます。

デジタル田園都市国家構想実現会議の下、「デジタル田園都市国家構想」を推進します。デジタルによる地域活性化を進め、さらには、地方から国全体へ、ボトムアップの成長を実現していきます。

海底ケーブルで日本を周回する「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」を3年程度で完成させます。各地に設置する大規模データセンター、光ファイバー、5G(第5世代)と組み合わせ、日本中、津々浦々、どこにいても、高速大容量のデジタルサービスを使えるようにします。

世界最先端のデジタル基盤の上で、自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などのサービスを実装していきます。

デジタル化、デジタルトランスフォーメーションを進める司令塔であるデジタル庁の機能をさらに強化します。

デジタル臨時行政調査会で、デジタル社会変革の青写真を描きます。まず、関係省庁が順守すべきデジタル原則を決めます。その枠組みの下で、来春には、規制や制度、行政の横断的な見直しを一気に進めるプランを取りまとめます。

マイナンバーカードは、安全安心なデジタル社会の「パスポート」であり、社会全体のデジタル化を進めるための最も重要なインフラです。

マイナンバーカードと、健康保険証、運転免許証との一体化、希望者の公金受取口座の登録を進めるとともに、本人確認機能をスマートフォンに搭載することで、利便性を向上させます。

さらに、12月20日から、マイナンバーカードを使い、スマートフォンによって、国内外で利用できるワクチン接種証明書を入手できるようにします。

これらの取り組みを進め、国民の皆さんに、デジタル社会のメリットを実感してもらえるようにします。

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