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小説を音楽にするユニット、YOASOBIが初の有観客ライブ「NICE TO MEET YOU」を12月4、5日、東京・日本武道館で行った。
コンポーザーのAyaseと、ボーカルのikuraによるユニット。約2年前に配信した第1弾楽曲「夜に駆ける」を筆頭に、ユーチューブやサブスクリプション(定額制配信サービス)で楽曲が数多く再生される、音楽新時代の象徴的な存在だ。
多くのアーティストが憧れる聖地・武道館に一足飛びに到達したのも破格だが、四方をファンに囲まれるセンターステージという構造も驚きだった。彼らは重圧を感じている様子はなく、家族に見守られているようなアットホームな一体感を楽しんでいるように見えた。
ステージの床はLEDパネルになっており、楽曲のテーマに合わせた映像を流した。「怪物」では吹き上がる火柱とおどろおどろしい映像が相乗効果を上げ、続く「優しい彗星」では一転、会場を霧が覆ったような感じになり、ステージが水面のように見えた。
Ayaseが生み出す楽曲は親しみやすくも、高い歌唱技術が要求される。ikuraは上下に動き、変化を繰り返すステージの上でも、終始落ち着いて柔らかな美声を響かせた。会場の四方を回って手を振りつつ歌うパフォーマンスも堂に入っていた。
「初めまして」を表すライブのタイトルは、意味深長だ。確かに、YOASOBIとファンの「対面」は初めて。なのに、双方向でつながるネット時代のたまもので、互いに気心が通じ合っているかのように感じた。「三原色」ではikuraのレクチャーなしに、ファンがラテンリズムの手拍子を一斉に刻んでいたり、Ayaseがドラマーとの2ショットを観客に撮らせて「(ネットに)上げといてね」と呼びかけたり――。
彼らの楽曲は原作の物語ありきのため、制作に関しても原作者など様々な人々と交流し、巻き込むことを特質とする。アンコールで歌った、この日15曲目となる「ラブレター」は、小学6年生(応募時)の児童が書いた手紙を原作にしたもの。「初めまして」というのは、原作の書き出しでもあり、「ラブレター」の歌い出しのフレーズでもある。音楽に救われ、感謝する思いを素直に歌うこの曲自体が、YOASOBIというコロナ禍の暗い世相を明るくしたユニットの物語にふさわしく、胸が熱くなった。(文化部・清川仁)