SBG出資のグラブ、SPAC上場で最大 株価は振るわず
【ニューヨーク=宮本岳則】ソフトバンクグループ(SBG)が出資する東南アジア配車最大手のグラブ・ホールディングスは2日、米ナスダック市場に上場した。株価は振るわず、前日比21%安で取引を終えた。特別買収目的会社(SPAC)との合併を経由した上場では過去最大規模で、終値で計算した時価総額は346億ドル(約3.9兆円)。ただ新型コロナウイルスの新変異型「オミクロン型」拡大の影響が懸念されており、厳しい船出となった。
グラブはこのほど米ナスダック市場に上場するSPAC「アルティメーター・グロース」と合併した。SPACは有力企業の買収のみを目的とした「箱」のような上場会社で、合併後はグラブが存続会社となった。合併時のグラブの評価額は346億ドル。第三者割当増資分を合わせた合併新会社の価値は約400億ドルに達していた。米調査会社ディールロジックによると、SPAC合併案件としては過去最大だ。
合併会社は第三者割当増資の形で約40億ドルを調達した。引受先には米大手資産運用会社のブラックロックやティー・ロウ・プライス、フィデリティ、シンガポール政府系ファンドのテマセク・ホールディングスなど有力機関投資家が並んだ。中国のIT(情報技術)規制強化によって、投資家の関心は東南アジアの巨大IT企業の一角であるグラブに向かっていた。
恒例の上場式典はナスダックのある米ニューヨークではなく、グラブが本拠を置くシンガポールで開かれた。アンソニー・タン最高経営責任者(CEO)は2日、「ナスダックの上場式典が東南アジアで開かれたのは初めてだ。マレーシアで始まった配車アプリは今や東南アジア8カ国、400を超える都市でサービスを展開するまでになった」と胸を張った。
上場初日の株価は大きく揺れた。初値は合併前の株価に比べて19%高い13.06ドルをつけたが、その後は売り先行となった。午前の時間帯からマイナス圏に入り、同21%安の8.75ドルで取引を終えた。第三者割当増資の発行価格(10ドル)を下回り、増資を引き受けた機関投資家は早くも含み損を抱えた形だ。
市場は「オミクロン型」の感染拡大を警戒する。新規株式公開(IPO)に詳しい米フロリダ大のジェイ・リッター教授は「グラブ株の下落にも投資家の懸念が一部反映されている」と指摘する。主力の配車サービスは行動制限の影響を受けやすい。南アフリカが新変異型の確認を世界保健機関(WHO)に報告した24日以降、米同業ウーバーテクノロジーズやリフトの株価は急落し、年初来安値圏で推移する。
グラブは米ハーバード大経営大学院の同級生だったアンソニー・タン氏と、タン・フイリン氏が12年にマレーシアで創業した。配車、宅配、金融を中核3事業とし、フィリピンやベトナムなどに進出している。上場によって機動的に資金調達できる体制を整え、3事業の成長を加速させる。
SBG傘下の「ビジョン・ファンド」や、中国で配車事業を手掛ける滴滴出行(ディディ)はグラブの初期投資家だ。協業関係にあるトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も株主として名を連ねる。
グラブの業績は低迷している。21年7~9月期の最終損益は9億8800万ドルの赤字に膨らんだ。赤字幅は四半期決算の数値が遡れる20年1~3月期以降で最大だ。月間の利用者数は2210万人と、新型コロナの感染拡大が本格化する前の20年1~3月期(2970万人)を大幅に下回る状態が続く。コロナ下での行動制限が響いており、黒字化の時期はまだみえていない。
上場は当初計画の7月から遅れた。監査法人が過去3年間の財務状況を調査するのに時間がかかったためだ。米証券取引委員会(SEC)がSPAC経由の上場を厳しく審査するようになったことも影響したとみられる。