パリの窓

デジタル大国

デジタル先進国、デンマークを出張で訪れた。国連が発表する世界電子政府ランキングで1位になり、日本のお手本とされる国だ。驚いたのは技術力以上に、省力化の徹底ぶりだった。

空港からホテルに着くと、受付に誰もいない。代わりに十数台の端末が並んでいた。自分で名前やカード番号を入力し、チェックインする仕組みだった。部屋番号が出ると、プラスチック板を差し込み、タッチ式の鍵も自分で作る。

隣の客が手間取っていると、ロビーのバーから係員が飛んできた。彼はバーテンと受付を兼務し、フロアを走り回っている。生ビールとナッツを頼むと、忙しいためか「好きなだけとって」と皿だけくれた。ジャンパー姿の警備員も兼務らしく、ワゴンで客の皿を下げている。10階建ての大ホテルなのに、1泊中に会った従業員はこの2人だけ。

ホテルだけではない。地下鉄では駅員が切符の自販機前で案内をし、車両が来ると、ホームに走って安全確認をするという具合だ。

デジタル社会は機械にできる作業は任せ、「人間は気働きをせよ」ということらしい。持ち場も広がるので、いろんな仕事を1人でこなす必要がある。しかも、職場には愚痴を言える同僚もまばら。白髪頭でキビキビ動く駅員を見ながら、「いずれ、日本もこうなるのか…」と少々不安になった。(三井美奈)

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