ロックダウン(都市封鎖)で大いなる静寂が訪れたとき、私たちは気付いた。刺激過多の脳と自然界に静けさがどれほど恩恵をもたらすか......。この時期、人間が姿を消した世界で野生動物は自由を満喫した。チリの首都サンティアゴにはピューマが出現。サンフランシスコでコヨーテが目撃され、ニューヨークっ子たちは車の音よりも高らかに響く鳥のさえずりに驚いた。きっと守れる──そう答えるのは音の収集のプロ、ゴードン・ヘンプトンだ。音響生態学者でもある彼は、消えつつある自然のサウンドスケープ( 音の風景)を求めて、過去40年間世界中を回ってきた。その使命は静寂に包まれた最後の秘境を守ること。ヘンプトンは自らのライフワークを本誌に熱く語ってくれた。
彼が仲間と共に設立したNPO「クワイエット・パークス・インターナショナル(QPI)」は、人々が日常的に静寂に浸れる場所を世界中に確保することを目指す。その活動の一環として2019年に、エクアドルのサバロ川流域の一画を世界初の「自然の静寂な公園」に指定した。 QPIはさらに世界で265カ所、静寂な公園を設ける予定だ。その中には人口密度が高い都市郊外の森林なども含まれる。その1つ、台湾の中心都市・台北に近い陽明山国家公園は世界初の「都市の静寂な公園」に指定された。 ヘンプトンの活動の原点はワシントン州のオリンピック国立公園だ。05年に公園内の森で「アメリカで最も静かな場所」を見つけた彼は、そこに目印の石を置き、「静寂の1平方インチ(約6.5平方センチ)」として飛行機などの騒音から守る運動を始めた。もともとヘンプトンは植物病理学を専攻していた。進路を変えたのは2つの音だ。1つはウィスコンシン州マディソンで出くわした嵐。雷鳴の音を聞いて、それこそ雷に打たれたように、自然の豊かさにショックを受けた。
私たちの脳は聴覚刺激を取捨選択するが、この出来事をきっかけに彼は周囲の音を専門機材で余さず聞くようになった。「ちょうどシュノーケルマスクを着けて海に潜ってみたようなものだ。それまで知らなかった世界の豊かさに圧倒された」
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