『絶対に解けない受験世界史3 悪問・難問・奇問・出題ミス集』稲田義智著(パブリブ) 2750円
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大学入試 あり方考える
評・苅部直(政治学者・東京大教授)
大学の入試問題に誰も解けないような難問・奇問が登場し、受験生を悩ませることは、よく話題になる。昨今の入試制度をめぐる改革で、知識を詰めこんだ量よりも、思考力を測る試験への転換が試みられた理由の一つである。
だが世界史という科目に関しては、特殊な事情がさらに重なっている。たとえば某大学は二〇一七年度に、「アジアからの遊牧民」として「マジャール人」を答えさせる問題を出した。だが設問の文面は高校学習参考書からの丸写しであり、そもそもアジア系という理解が、今では検定教科書から消えている古い説明だった。
おそらくは出題にあたる大学教員が、自分の専門ではない、さまざまな地域と時代に関する問題を作っているからだろう。そのために、世界史教科書や用語集から細かい情報を拾い出して、深く検討しないまま
昨今「高大接続」が盛んに唱えられるにもかかわらず、そのつなぎ目である入試問題は、どういう知識を新入生に求めるかについて、十分に考えないまま作られているのである。バラク・オバマ大統領の業績や、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』について問うた大学もあるが、優秀な高校生なら知っていて当然の一般教養だとみなすのは、さすがに無理がある。
それでも、先の一月に初めて実施された大学入学共通テストに関しては、試行調査の雑な出題を克服して「よく軌道修正されていた」という。良問を出すと著者が評価している大学も、数は少ないが存在する。大学関係者は自己反省のために、それ以外の読者は歴史教育のあり方を考えるために、ぜひ読んでほしいと思う。